茶褐色の岩と砂だけの大地が広がっている。霧に覆われた空は昼を忘れさせ、世界が何処まで続いているかを更に不明瞭にする。

 四面の石だけで造られた市壁が脆く崩れ去っている光景を前に、老人は一人立ちすくんでいた。


「ここは、一体? 私は確か……前線で指揮を執っていて……」


 そこで後ろから優しく声を掛けられる。


さん。戦争は終わりました」

「ロバート? 私はロバート……そうか、私はロバートなのか。終わった……? そうか、戦争は終わったのか。じゃあ私は帰れるのか? 故郷に」

「ええ、そうです。帰れますよ」


 ロバートと言われた老人は辺りを見回して、声を掛けてきた全身を藍色のローブで包んでいる若者に再度問いかけた。


「では、此処は一体どこだ?」

「此処は何十年も前に滅んだ国の、ただの瓦礫の山です」

「では、私の故郷は…何処だ? いや、そもそも何という国だった? 私は故郷に……確か……大切な誰かを待たせていたような……其方は、何故私の元に? 何か知っているのではないのか?」


 若者はかぶりを振り、穏やかな笑みをたたえながら言った。


「いえ、何も。私は通りすがりの旅の修道者です。様子がおかしいので声を掛けただけです。大丈夫そうですね、ではこれで」


 戸惑う老人を背にロブマイヤーは歩き出した。


 絶望に屈し、全てを終わらせる事を選んだ選択は正しかったのか?

 彼がこれからの余生をどう過ごすのか?

 この結末が彼にとって幸せだったのか? 

 そんな事はロブマイヤーにとっては、記憶を奪う能力を使わずとも明日には忘れるであろう些末な疑問だった。


 こうして、依頼を果たしたロブマイヤーは、かつてシャンパーニュと呼ばれていた廃墟跡を後にし、故郷ソムリエに戻る為、御者を待機させている近くの村へ向かった。


 果てしなく遠い希望にすがりつき進み続けるその様が、まるで絶望そのものだと指摘する者は、その場には誰一人として居なかった。



























(※これにて一旦完結。ネタが降りてきたらまた書きます。ネタバレ裏話の方に設定とかあります)

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あの日見た夢の果実が実るまで レイノール斉藤 @raynord_saitou

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