6
「ロブ……」
「フィオーラ。逢いたかった。一ヶ月ぶりだね」
かつてのフィオーラとして目覚めた人形を、ロブマイヤーはそっと抱きしめる。
「ずっと一緒に居たじゃない」
「ああ、そうだったね。でもやっぱり寂しかったよ」
「あの二人の記憶が残ってる」
「大丈夫かい?」
「ええ、でも、フィオーラを維持できるのがもうあと少しの時間しか無いみたい」
それを聞いてロブマイヤーは露骨に残念そうな態度を浮かべる。
「ああ、そうか。結局二人しか食べられなかったからね。今回はハズレを引いたみたいだ。来月の新月の時は、もっと沢山食べさせるから。そしたらもっと長い時間一緒に過ごせるよね。…何なら依頼とか関係無くどこか人の多い国に行って……」
「ねえロブ、もう止めて、私の為に他の人を犠牲にするなんて」
「フィオーラ! なぜそんな事言うんだ! 私は君が居ないと駄目なんだよ!」
それまで娘を見るように優しい笑みを向けていた表情が一変、鬼気迫るものになった。だが、フィオーラはそれに対してより一層悲しそうな表情で応える。
「…ロブ、お願いだからもう止めて。私はもう良いの。短い間だったけど死ぬまで貴方に愛されて本当に幸せだった」
「駄目だ! フィオーラ! 君は死んでなんかいない! そんな運命を変える為に、この能力があるんじゃないか! 神が余りにも残酷なら、僕が神になるしか無いじゃないか!!」
泣いてすがりつくロブマイヤー、その様子は必死に母親に駄々をこねる子供のようでもあった。
「あの二人の記憶を見たでしょう? 運命に抗った所でその先には悲しみしか無いわ」
「フィオーラ! 君を愛しているんだ! 君の為ならそれ以外の全てを犠牲にしても良いと誓ったんだ! 頼むからそんな事言わないでくれ! 僕を愛していると言ってくれ!!」
そんなロブマイヤーに、慈母のように優しく諭すフィオーラ。だがその言葉は男には届かない。彼もまた『愛執』という呪いに憑りつかれている一人だったのだから。
「ロブ、私も愛してる。だから、もう……」
その先の言葉を紡ぐ事無く、フィオーラは只の人形に戻った。こぼれ落ちる涙がフィオーラに注がれる。ただそれは、見ようによってはフィオーラが泣いているようにも見える光景だった。
その場でしばらく俯いていたロブマイヤーは、誰に言うでもなく一人その場で呟いた。
「フィオーラ、いつかきっと君を取り戻してみせる」
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