「ロブ……」

「フィオーラ。逢いたかった。一ヶ月ぶりだね」


 として目覚めた人形を、ロブマイヤーはそっと抱きしめる。


「ずっと一緒に居たじゃない」

「ああ、そうだったね。でもやっぱり寂しかったよ」

「あの二人の記憶が残ってる」

「大丈夫かい?」

「ええ、でも、フィオーラを維持できるのがもうあと少しの時間しか無いみたい」


 それを聞いてロブマイヤーは露骨に残念そうな態度を浮かべる。


「ああ、そうか。結局二人しかからね。今回はハズレを引いたみたいだ。来月の新月の時は、もっと沢山食べさせるから。そしたらもっと長い時間一緒に過ごせるよね。…何なら依頼とか関係無くどこか人の多い国に行って……」

「ねえロブ、もう止めて、私の為に他の人を犠牲にするなんて」

「フィオーラ! なぜそんな事言うんだ! 私は君が居ないと駄目なんだよ!」


 それまで娘を見るように優しい笑みを向けていた表情が一変、鬼気迫るものになった。だが、フィオーラはそれに対してより一層悲しそうな表情で応える。


「…ロブ、お願いだからもう止めて。私はもう良いの。短い間だったけど死ぬまで貴方に愛されて本当に幸せだった」

「駄目だ! フィオーラ! 君は死んでなんかいない! そんな運命を変える為に、この能力があるんじゃないか! 神が余りにも残酷なら、僕が神になるしか無いじゃないか!!」


 泣いてすがりつくロブマイヤー、その様子は必死に母親に駄々をこねる子供のようでもあった。


「あの二人の記憶を見たでしょう? 運命に抗った所でその先には悲しみしか無いわ」

「フィオーラ! 君を愛しているんだ! 君の為ならそれ以外の全てを犠牲にしても良いと誓ったんだ! 頼むからそんな事言わないでくれ! 僕を愛していると言ってくれ!!」


 そんなロブマイヤーに、慈母のように優しく諭すフィオーラ。だがその言葉は男には届かない。彼もまた『愛執』という呪いに憑りつかれている一人だったのだから。


「ロブ、私も愛してる。だから、もう……」


 その先の言葉を紡ぐ事無く、フィオーラは只の人形に戻った。こぼれ落ちる涙がフィオーラに注がれる。ただそれは、見ようによってはフィオーラが泣いているようにも見える光景だった。

 その場でしばらく俯いていたロブマイヤーは、誰に言うでもなく一人その場で呟いた。


「フィオーラ、いつかきっと君を取り戻してみせる」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る