愛の戦死
「愛に優劣はないの。あるのは本当の愛か偽物の愛かという真偽だけ」
また奴の、お得意で悪癖のご高説が始まった。こと、片想いの先輩の話題となると見境なく、垂れるのだから困ったもんだ。
まあ、こいつがそんな高説垂れ始める発端は、大概私からだけれども。今回はあまりに先輩に入れ込む理由がわからないから、今まで好きだった人ランキングの何位に先輩は食い込むか聞いてみたのだ。恐らく脳内がお花畑な馬鹿だから
「一位に決まってるでしょ!」
とか、下手したら
「殿堂入りよ!」
なんて返ってくるかしらん、と思っていたら先のお言葉だ。意味がわからん。
そんな茶番な日常茶飯に、わからないように息を吸って、反して、盛大に吐き出す。これはパフォーマンス。お前の話は意味がわからん上につまらないという、溜め息での意思表示なのだ。
「なんなの本当の愛って。新しい宗教の概念か何か?」
「本当の愛を知らないなんて可哀想に。あんたが今まで開いた股は偽物の愛のためだったのよ」
「ほざけ、下半身鉄壁が」
「
誰の下半身が緩み過ぎて傾いてるですって、この
「その割にはまだ先輩落とすのに苦戦しているようですがねえ。その辺、本当の愛をご存知ならば至極簡単なことなのでは」
「本当の愛を知る者はね、報われるまで戦うの、戦い続ける戦士なの、愛のね」
今度は戦士ときたもんだ。愛の戦士。やっぱり宗教じみた何かなんじゃないのだろうか。
「で? 愛の戦士、
「成敗って……桃太郎の鬼退治じゃないんだから、じゃなくて! そもそも成敗もお仕置きも討伐もしないわよ。忙しいの! 一分一秒も無駄にせず先輩に捧げたいし、捧げてもらいたいの! あんたに構ってあげる時間なんてこれっぽっちもないわけ! アンダスタン?」
忙しいものなのか、本当の愛を知った人間は。ならば、悔しいが、やはり私は本当の愛を知らない。
だって、今もお付き合いしている人がいるのに、こんな不毛なやり取りをしている暇も、新作フラペチーノを買いに行く暇も、買うほどではないが気になる雑誌を立ち読みする暇さえある。
その時間を惜しいと、思ったこともない。
緩やかに、でも確実に。私の愛は死んでいる。本当の愛を見付けたのだと自称する、こいつはとても幸せそうで、私に言葉を信じさせる。影響とか布教とか、そんな言葉じゃ生ぬるい。もはや、洗脳だ。
「本当の愛」を知らない私よりも、「本当の愛」を知っているこいつの方が、幸せだというのが、この世の真理かつ普遍的真実で不変的事実であると。
本当のところ、「本当の愛」なんてものが本当に存在するかどうかもわからない。だって私は、本当の愛がどんなものかもわからない。なんだか「本当」がゲシュタルト崩壊しそうだけれど。
それでも、思い求めて止まない。こんな馬鹿な女が羨ましくて仕方ない。下手したら羨みを通り越して、憎しみと呼んでも過言でないかも。
「でもね、わたしにとって先輩は本当の愛の相手でも、先輩にとっての本当の愛は、別の人が持ってるかもしれないの」
だから、戦うのよ。
いつになく、弱気な言葉だと思った。
本当の愛を知っていても、それを手に入れることは、そんなに難しいものなのか。
それなら、いつか、私も本当の愛に出会えたならば。
「その時は、骨を拾って、墓でも作ってあげなきゃね」
縁起でもないことを言うんじゃないわよ、と吠えてるあんたの墓じゃないわよ、馬鹿女。
本物に出会えず、それでも本物を
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