第35話

 例の幹部会の翌日。

 未来は、いつもの通り、自分が住むマンションの近くにある図書館に向かっていた。そこにある自習室で、朝から晩まで受験勉強に取組むのが、彼女の日課なのだ。

 試験本番は一か月後に迫っている。

 今までの勉強の総仕上げに取組む予定だったのに、予想外の問題が持ち上がってしまった。

 (……。集中出来ていないな)

 先程から、机に向かい、過去問題集に取り組んでいるものの、昨日の話が頭から離れず、問題文の同じ個所を何度も目で追っている。未来が勉強を進めていく過程で、このような状態に陥ってしまうのは、疲れているときか、何か悩み事を抱えているときだ。

 未来は、筆記用具を一旦置いた。

 「例の件」について、今日一日集中して考え、結論を出してみようと思った。

 未来は、自習室の机の自分の勉強道具を鞄に仕舞い始めた。

 「ある場所」に向かおうと、決めた。


 未来は、受験勉強で頭が疲れた時、行きつけの喫茶店で小説に読み耽るようにしている。そうすることで、頭がすっきりとするからだ。

 なぜ、「喫茶店」なのか。お洒落な感じのする「カフェ」ではなく、昭和の匂いが残っているような店がなぜ好きなのか、彼女自身にも良くは解らない。

 昭和の匂いが微かにして、しかも、立派な本棚と少なくない量の本がある、そんな店が好きで、行きつけの店を持っていた。

 彼女は、そこに行くことにした。


 その店は、図書館から歩いて五分くらいの場所にある。

 店内は明るく、静かで、落ち着いた雰囲気の店だ。カウンター席とテーブル席の他に、奥にソファーの席もあり、全体的にゆったりとしている。窓際の席に座ると店の近くを流れる川を見下ろすことが出来る。

 未来は、特に決まった席があるわけではない。

 今日は、窓際の席に座ることにした。少し長居がしたいからだ。

 店員が、お冷とメニューを持ってテーブルまでやってくるまでの間、未来は、窓から見下ろせるその川に目をやった。


 その川は、ゆったりと流れていた。

 何百年と続いてきた営みのような、そのゆっくりとした流れを見たとき、未来は、心が不思議と落ち着いていくのを感じた。

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