第30話

 足立家は、代々女性が当主となり、女性中心の家として栄えて来たことは、以前に触れた。

 それだけに、母の房子は、家の大事を前にすると、狼狽えることなく腰が据わるものらしい。

 しばらく、沈黙が、この場を支配した。

 益田を含め、会社のメンバーは、自分たちの本当のリーダーが誰なのかを、実は良く知っていた。

 

「変則的だけど……」

 ようやく、房子が口を開いた。

「この未来を会社に入れるわ」

「……」

「……」

「やはり、それが良いでしょうな」

 と、益田が言った。

「銀行には、こう言って頂戴。

 後継者として、この未来に、会社の業務を一通り身に付けさせる為に、現社長の良介はしばらく現場から遠ざかって、この子を見守っているのです、って」

「ちょっと待ってよ」

 と、未来は慌てて言った。

 家業とは言いながら、彼女は今までに一度も「足立家の仕事」を経験したことが無い。この房子のアイディアが、如何に無理があるか。当の未来が良く解かっていた。

「聞きなさい。未来。二つに一つよ。

 グズグズせずに、お婿さんを早くとって、その男を一日も早く入社させて良介の後継者にするか。

 あるいは、結婚したくないなら、貴女自らが良介の後継者になるか。

 いずれにしろ、早く手を打たないと、手遅れになるわ。

 この前のお見合いはどうだったの?

 先方は、是非に、と言ってきているのよ」

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