第29話
「この子はね、司法試験の勉強をしているのよ」
と、房子は、皆に淡々と言った。
「司法試験って……」
桜井が、真っ先にその言葉に反応を示した。
「確か、弁護士さんとかになるための試験ですよね」
それまで自分の感情を表に出さないで居た桜井が、目を見開きながらそう言った。
「はい。裁判官・検察官・弁護士になるための試験です」
と、まるで、面接試験の時のような真面目さで、未来は答えた。
「そりゃあ、大変だ」
高原が、続けて言った。
「将来は、弁護士さんですか?やっぱり……」
桜井が、興味深々と言った様子で未来を見ながら、そう言った。
「社長からの連絡を待っている間、どうするか?だな。社長のご判断を仰がなければならない案件も幾つかあるし、何を言っても銀行対策が必要だ。このままだと、確実に信用を失ってしまう」
と、益田が、この場の話の流れを元に戻すかのように、そう言った。
「いきなり返済を迫られたり、新しい案件への融資を渋ったりは無いだろうが、社長不在が長引くと……、何かとマズいな……」
益田は、彼が最も気になっている点を、皆に話した。
「会社の業務はどうなの?良介が居なくても、問題は無いの?」
と、房子が、益田に聞いた。
「ええ、ここしばらくは、今ここに居るメンバーでこなせると思います。社長も出張が多い方だったので、いつも社内にいらっしゃるわけではありませんでした。ですので、現場で判断すべき内容は、それぞれの担当部署で判断出来るようにはなっています」
益田は、皆にも良く理解出来るように、房子に説明した。益田のこの言葉は、ここに集まっているメンバーを房子にアピールすると同時に、皆に覚悟を持って働くことを要求してもいた。
「しばらくって、どのくらい?」
と、房子は、益田の話をじっと聞きながら、冷静な表情でそう聞いた。
「約三か月でしょうか……。最大でも」
「三か月か……」
房子は、腕組みをしながら、暫く考え込んだ。彼女のその表情は、組織を束ねる経営者のそれになってきている。
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