第28話

 未来は知っている。

 母親の房子は、普段、所かまわずに良く喋る割には、自分に不利な状況になると、

まるで貝のように沈黙してしまうことがあるのだ。

(またか……)

 未来は、そう思わざるを得ない。

 しかし、母は何をしていたのか?ここ、二、三日の間。

 父である良介の様子も知らないようだし。

 家政婦の菜々が家に来ていたかどうかも知らないようだ。

(家に居なかったのかしら)

 日頃の不満もあって、問い詰めてやりたい気持ちに、未来は発作的になってしまったが、家業である会社の従業員を前にして、未来は、自然と自分を抑えた。


「とりあえず、どうしましょうか。このまま暫く、連絡を待つか、警察に届けるか。

法律的には、何か手続きがいるのでしょうか……」

 と、益田が、房子にお伺いを立てるかのように聞いた。

「法律的には、失踪宣告があるけど、あれは、消息不明が7年間も続いた場合だから」

 と、未来が房子の代わりにそう言った。


「……」

 一瞬、この場に居る、足立家の従業員たちの視線が、未来に集まった。

 未来を、見直すかのような雰囲気が、この場を支配した。

 房子は、この雰囲気を苦々しく感じた。少なくとも、未来にはそう感じられた。

 会社の従業員にとって、足立未来という女性の存在は、何処で何の仕事をしているのか、よく分らない存在なのだ。

 その未来が、民法の知識を持ち合わせていて、即答出来る能力を持っていることに

従業員たちは意外な思いがしたのだ。

「たまには、役にたつじゃない。あんたのやっていることも」

 と、房子は、憎々しげにそう言った。

 

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