第27話
房子が、鋭い視線を氏家に向ける。
その鋭さにも関わらず、彼は、続けた。
「ええ、会社にいらっしゃった時も、何か、いつもと違いました」
「いつもと違う?」
と、今度は、未来が口を挟んだ。
「ええ、まあ、そのう……」
と、氏家は言いにくそうだ。
「氏家」
益田が、彼を制した。
足立良介が、失踪する直前期、毎日のように、酒の臭いをプンプンとさせて、
二日酔いの表情で会社に来ていたことは、既に触れた。
この場には、良介の妻だけでなく、その娘までが同席している。
自分の父親の痴態についての話など、聞きたくもないはずだ。
仕事の時の良介の姿を、誰よりも良く知る益田からすれば、仕事上の悩みから
ああなったとは考えにくい。だとすると、夫婦間の問題が根底に有るかも知れない。
そうであれば、尚更、第三者が口を挟むべきではない。
房子の視線の鋭さは、それを物語っているのではないかと、益田には思えた。
「その、何?」
房子が口を開いた。
「疲れていたって、何があったの?」
突き刺すような声が、氏家に向けられた。
「……」
氏家は、バツが悪そうに、口をつむんだ。
「奥様、今は、今後の善後策を考えるべき時だと思いますが」
「いいえ、気になるわ。氏家さん、言って頂戴」
「お母さんは、知らなかったの?家に居て、お父さんの様子に何か変わったことは無かったの?」
と、未来が、矛先を変えるべく、房子に向かって言った。
今度は、房子が黙る番だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます