第27話

  房子が、鋭い視線を氏家に向ける。

 その鋭さにも関わらず、彼は、続けた。

「ええ、会社にいらっしゃった時も、何か、いつもと違いました」

「いつもと違う?」

 と、今度は、未来が口を挟んだ。

「ええ、まあ、そのう……」

 と、氏家は言いにくそうだ。

「氏家」

 益田が、彼を制した。


 足立良介が、失踪する直前期、毎日のように、酒の臭いをプンプンとさせて、

二日酔いの表情で会社に来ていたことは、既に触れた。

 この場には、良介の妻だけでなく、その娘までが同席している。

 自分の父親の痴態についての話など、聞きたくもないはずだ。

 仕事の時の良介の姿を、誰よりも良く知る益田からすれば、仕事上の悩みから

ああなったとは考えにくい。だとすると、夫婦間の問題が根底に有るかも知れない。

そうであれば、尚更、第三者が口を挟むべきではない。

 房子の視線の鋭さは、それを物語っているのではないかと、益田には思えた。

「その、何?」

 房子が口を開いた。

「疲れていたって、何があったの?」

 突き刺すような声が、氏家に向けられた。

「……」

 氏家は、バツが悪そうに、口をつむんだ。

「奥様、今は、今後の善後策を考えるべき時だと思いますが」

「いいえ、気になるわ。氏家さん、言って頂戴」

「お母さんは、知らなかったの?家に居て、お父さんの様子に何か変わったことは無かったの?」

 と、未来が、矛先を変えるべく、房子に向かって言った。

 今度は、房子が黙る番だった。

 

 

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