第26話

  温かい珈琲と紅茶、そしてベルギー産のチョコレート菓子が、この場を幾分か

和ませた。皆の顔が穏やかになっていくのが分かる。

 益田などは、余程緊張していたのだろう。出されたコーヒーを、あっという間に飲み干してしまい、未来がお代わりをもう一杯作ってあげた程だ。

「これは、アールグレイですか」

 氏家が未来を見て言った。

「ええ、良くご存知ですね」

「私は、紅茶の中でも、これが一番好きなもので。何というか、独特じゃないですか」

「クセがな、独特だな」

 高原が横から言った。

「珈琲の方も、何かクセがあるような」

 桜井が言った。

「珈琲豆は、ハワイ・コナなんです」

「ああ、あの高価な豆……」

「ブルーマウンテン程ではないですけど」

「紅茶も珈琲も、全部、社長の好みなんだよ」

 益田が言った。

「……」

「……」

 社長、の二文字がその場の沈黙を招いた。

「……、社長、どこに行ったんでしょうね」

 桜井が、ポツリ、と呟いた。

「丁度、三日前からなんだ」

 益田が、口を開いた。

「三日前……」

 未来は、三日前に自分が何をしていたか、思い出してみた。

 ただ、思い出すまでも無いのだが。

 受験生としての彼女の日常は、ひたすら勉強の毎日でしかないのだから。

「うん、一昨日までは、電話も繋がったんだ。いくつか仕事のことで相談もした。

でも、それが最後だ」

「この三日間は、珍しく出張の予定も入ってないんですよね。だから、社内で

会議や決裁の予定だけだったんです。ただ、それらも一日あれば済む量だったんで……。社長は、そういう時、決まって、何処かの物件を見に行く人だから。

その様子がないから、あれ、どうしたのかな、って」

 桜井が言った。彼女は良介の秘書に近い存在であることは、先に触れた。

「何か、こう、疲れてらっしゃいましたからね」

 氏家が、独り言ちた。

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