第24話

 未来は一瞬考えた。桜井の言葉には、さり気無いがどことなく有無を言わせないものがあった。

 「そうね、別に構わないわよ。せっかくだから」

 そう言うと未来は笑顔を作った。

 桜井も笑顔で返した。そこには、多少の安堵感がある。

 「カップはこれでいいですか?」

 「そうね。紅茶がこれで、珈琲がこれかな。良く解からないけれど」

 未来はそう言うと、キッチンからリビングの応接ソファーの方を見た。キッチンはリビングの奥の方に位置している。未来と桜井の話し声は、距離があって聞こえないはずだ。

 「向こう側のソファに座っているのが、高原さんと氏家さん。右側の年配の人が高原さんで、若い方が氏家さん」

 高原と呼ばれた男は、長方形の顔かたちをした小柄な男だった。眉毛がやや下がり、口がやや大きい。眉毛の下の目は、やや小さめだが、油断なく動いている。

 グレーの背広に白のワイシャツ。ネクタイも地味な黒地のものを身に着けている。

 聞くと、六十近い年齢だという。

 高原の隣に居るのが氏家という男らしい。

 若い。そして美男だった。

 ただ、何処となく、虫の好かないタイプだと未来は感じた。

 「彼は、一流の国立大学を出ているんです」

 と言った桜井の言葉の端にも、未来と同様の響きがあった。

 黒々とした髪を、丁寧にオールバックで固めたその風貌は、さながら金融マンのようでもあった。

 鼻筋が通り、美しく弧を描いた眉の下には、男というよりは、幾分女性的な黒々とした湿っぽい目があった。ただし、その両目も、油断なく動いている。

 紺のスーツに白いワイシャツを着て、ノーネクタイだった。年齢は四十を越したばかりだと言う。

 「しかも、独身なの」

 あれだけの外見を持っていて、恐らく仕事も出来るだろう。それでいて独身だと言うのは、余程の遊び人なのだろうか。あるいは、離婚歴があるのかも知れない。

 「そこのところは、良く分からないんです。プライベートなことですし」

 「ふうん」

 ケトルがお湯が沸いたことを告げる。

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