第23話

 「あの女も居なくなったのよ」

 「え?菜々さんも?」

 「そうよ!普段から何考えているか解らない女だったけど。

ここ二三日家にも来ていないみたいなのよ。益田が良介と連絡が取れなくなったのも二三日前からだし」

 「とりあえず、お茶いれるね」

 未来はスッと立ち上がり、キッチンに向かおうとした。

 (二三日家に来ていないみたい?)

 房子の言葉にやや違和感を覚えつつ、リビングに集まっている人数を確認するのを思い出し、未来はソファのある方に振り向いた。

 この日、良介の失踪を聞いて集まった会社の幹部は、益田・高原・氏家・桜井の四人だ。そのうち、桜井は唯一の女性である。足立家の人間としては、未来と母親の房子、そして弟の淳だった。

 「未来さん、私も手伝います」

 そう言って未来に付いてキッチンに向かったのは、唯一の女性幹部である桜井だった。彼女は、会社の経営幹部というよりは、良介の秘書に近い存在であることは既に触れた。

 「大丈夫よ。私やるから」

 「いいえ、手伝わせて下さい」

 「ありがとう」

 「ご挨拶が遅れました。私...」

 「桜井さんでしょ?」

 「えっ?」

 「父からよく話を聞いていたわ。私とほぼ同じ年のすごく優秀な女性が幹部にいるって

 「優秀だなんて」

 「会社の人達って、みんなコーヒーでいいのかしら?お紅茶の方がいい人っている?」

 「高原さんと氏家さんは、紅茶を飲まれます」

 「じゃあ、紅茶二つとコーヒーが五つね」

 未来はそう言うと、紅茶の茶葉とコーヒー豆を探す。普段は、別の場所で一人で暮らしているため、本家の台所は勝手が解らない。

 やっとの思いで、茶葉と珈琲豆を見つけると、豆をミルで挽き、お湯を沸かす。

次は、カップを探さなくてはならない。

 未来と一緒に、大きな食器棚から紅茶用と珈琲用のカップ&ソーサー探していた桜井が、

 「あの...」

 と未来に小声で話しかけた。

 「何?」

 「折角ですから、会社の人達のこと、お教えしましょうか?」

 「え?なぜ?」

 「今日ここに居るのが誰なのか、知っておいて欲しいんです」

 「私が?」

 「ええ」

 「...」

 


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