第22話
未来は、車庫の勝手口から中に入ると、二階の自分の部屋には寄らずに、
一階のリビングに向かった。いつもなら、広く長い廊下に明かりが灯っているが、
今晩に限って一つも灯っていない。足立家の家政婦でさえ、動転しているのか?
リビングには、いつもより大勢の人間が居る気配がする。皆、一様に動揺している
らしく、未来が入ってきたことに誰一人気が付かない。来客用の応接用ソファーに数人のスーツ姿の男がうつむいて座っていた。房子がスマートフォンから電話を掛けている。数秒間彼女の動作が静止する。
「出ませんか...」
房子の左隣りに益田が座っていた。彼は、深刻な視線を彼女に向けた。その彼の視線が、リビングに入ってきた未来の姿を捉えた。
「...」
益田は未来と目を合わせると、何も言わずただ頷いた。大丈夫、心配するなと言いた気な様子だ。
房子も未来に気付くと、スマホを耳から離した。
「遅かったわね」
「そう?」
未来は、益田の隣りに座ろうとしたが、リビングに居るお客にお茶一つ出ていないことに気付いた。母は気が動転しているのが一目で分かる。こんな時、家政婦が気を利かすべきなのだ。
足立家の家政婦は若い。
菜々という名の四十歳の女性だった。菜々という名前以外に、例えば、名字は何と言うのか、どこの出身なのか、なぜその若さで家政婦をやっているのか等、何一つ
未来は知らない。尤も、彼女自身、根掘り葉掘り聞くつもりも無いが。
「菜々さんは?お茶くらい出して貰えばいいのに」
未来が房子に話しかけると、まるで「菜々」と言う名前を口にすることがタブーであるかのような、ひんやりと冷たい空気がその場に流れた。
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