第19話

 足立淳は、同じ知らせを昼過ぎに知った。

 高級ホテルのフレンチレストランの席に着いて、白ワインを口にしているところだった。 

 彼は、昨日父と会っていた。

 彼の脳裏には、昨日の父の姿が焼き付いている。それは、堂々としていて父としての威厳に満ちた姿だったのだ。それだけに、彼の中で、父の失踪が上手く消化出来ないでいる。

 淳は、未だ定職に就いていない。

 しかし、父は、そんな息子を一度たりとも責めたりせず、むしろ、我が子の中で芽生えつつある可能性の芽を大切に育ててやろうとしていた。

 少なくとも、息子の淳には、そう見えた。

 「今も続けているのか?」

 「ん?あ、あれ?うん」

 「そうか。頑張れよ。お前には才能があるよ。

 金の事は心配するな。俺が何とでもしてやるよ」

 そう言って、父は目を細めた。

 「お前と俺は、似た者同士だ」

 

 そう、確かに昨日、父はそう言った。意外そうな表情の息子に対し、父は重ねるように言った。

 「そうは、思わないか?」

 それは、まるで、数少ない自らの同志を探し求めているかのような表情だった。

 あれだけ自信に満ちた表情に、ほんの一瞬間、翳りのようなものが宿った。


 淳の記憶の中で、父・足立良介の寂しげな表情を見たのは、後にも先にもこの時だけだった。


 (もしかしたら)

 と、淳は思った。

 今回の父の失踪は、あの「翳り」と関係があるのかも知れない。

 淳は、居ても立っても居られなくなってきた。

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