第18話

 「未来、話があるの。夕方六時くらいに家によって頂戴」

 普段なら電話など掛かって来ない時間帯に、未来は母から連絡を受けた。

 いつになく、声が緊張している。取り乱しては居なかったが、いつもの母なら

ほとんどの用事はメールで済ませる事を考えると、余程の緊急な用事だろうと想像出来る。

 腕時計を見る。時計の針は、午前十時三十分を少し過ぎている。

 未来の日常は、この時計の針と同じくらい正確に営まれている。子供の頃から計画をしっかりと立てて物事を進めることが得意だった。今の彼女が置かれている状況は、特にその事を強く要求していた。

 彼女は、一日と一週間の時間割を、B5サイズのレポート用紙に鉛筆書きにして常に携帯している。それによれば、夕方六時頃は、図書館で引き続き勉強していることになっている。

 今は、彼女の人生にとって正念場である。

 そのことを考えると、この母からの呼び出しは、出来れば断っておきたいところだ。

 別の日に延ばせないかしら。もう予定が決まっているのだし。

 彼女は、それとなく母に言ってみたが、母はそんな娘を頭ごなしに𠮟りつけるように言った。

 「そんな悠長な話じゃないのよ。いい加減にして頂戴」

 「…、何かあったの?」

 「良介が、居なくなったのよ」

 (お父さんが?)

 「…、ん?どういうこと?」

 「益田から、連絡があったのよ!昨日から、全く連絡が取れないって」

 「解った。今すぐに行くから」

 「今すぐでなくていいから。夕方六時に来て」

 「六時ね」

 (六時?会社の事で何か忙しいのかな?)

 未来は、僅かに引っかかる何かを感じたまま、スマホを鞄の中にしまった。

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