第10話
家業と聞くと、何か商店街の片隅で、店舗と住居が一体化した建物で
「お父ちゃんとお母ちゃん」とが、汗みどろになって働いているような
そんなイメージかも知れない。
足立家の場合、百年以上続いているとあって、その会社の佇まいには
大企業と比べても何ら引けを取らない重みがある。
全国でも三本の指に入るある大都市のビジネス街には、南北に流れる
大通りがある。その東側のある角地に、彼らの所有するビルがある。
どっしりとした構えのビルだ。
建物そのものは古いが、管理が優れているがために、むしろ建物に
独特の艶がある。そのビルの最上階に彼らの会社は入っている。ひっそりと
世間の目から逃れるように。
派手な宣伝をして、世間に自分たちの存在を誇示するような行動は、
不思議とこの一族には見受けられない。
足立家は、複数の企業を所有しているが、「A興産」が事業の中核を
担っている。
A興産とは、全国の主要都市に数多くの土地と建物を持ち、巨額の地代と
家賃を稼ぐ不動産会社である。
A興産の朝は早い。
足立良介が、今の足立家を実質的に動かしていることはすでに述べた。
彼は、どんなに忙しくても、朝誰よりも早く出社する。
毎朝6時半には、自らの仕事に取り掛かっている。
そして、毎朝7時半には、経営幹部による会議が始まるのが、A興産の日常の
姿なのだ。
良介が、全幅の信頼を寄せている幹部がいる。
益田恵吉という。
年齢は、良介よりも上だし、実務も彼よりも詳しい。
というよりも、職人と言っていいだろう。
不動産の管理と一口で言っても、その業務は多岐に渡る。物件毎に癖もあるし、
「年齢」も違う。
そして結局は、いくら手元に資金が残るか、つまり、いくら儲かるかに尽きるから
如何にして入る金と出る金を効率よく管理するか、が重要になってくる。
そして、それ以上に重要になってくるのが、残った金を如何にして効率よく投資するかである。
どこの部分の修理にいくら掛けると、賃料がいくら上がるのか。
入居希望者の、どの要望を聞けば利益が上がるのか。
足立家ほどの規模になると、熟練した「職人技」と言えるような力量の持ち主を、
多数必要とした。
複数いるA興産のそういう責任者の中でも、益田は群を抜いた存在だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます