第7話

  その店の店内は、訪れる人をとても落ち着かせる雰囲気を持っている。

 

 テーブルとイスは全て木製のアンティークで、念を入れて磨かれて居、

その手入れの良さと経てきた年月とが落ち着きのある艶を出させている。

 それぞれの席は、ゆったりとしたスペースが確保されて居、店内には

ジャズシンガー・ビリーホリデイの甘い歌声が響いている。

 

 この空間で、客は日常生活を完全に忘れることが出来た。

良介は、この店の奥にあるゆったりとしたソファーの席に座って、

最も高いカップの一つであるハワイ・コナを注文し、体をゆっくりとその

ソファーに沈めた。

 「当店は、お客様に、あちらの棚からお好みのカップアンドソーサーをお選び頂いておりますが。。。」

 注文を聞き終えた店員が、やや遠慮がちに、良介にそう言った。

 「ああ、知ってるよ。今日は、お任せする」

 最近入店したのだろうか、見慣れない顔の若い男の店員にそう告げると、

良介はソファーの右隣にある大きな本棚に目をやった。


 その本棚には、世界文学と日本文学の全集が並び、学者の著作である専門的な学術書や大判の写真集、世界的な巨匠たちの画集が整然と並んでいる。

 

 良介は、ソファーから立ち上がり、暫く棚の本を眺めた。

 何冊かを手に取り、軽く目を通しては、棚に戻す。

 この動作を何回か繰り返した後、ふと、一冊の古書を見つけた。

 

 「商家の家訓」


 そう題された分厚い古書を手に取ると、良介はその本の世界に没頭し始めた。



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