第4話

 良介は、足立家三代目の当主である房子の養子として足立家の婿になった。

 事業は、三代目までは新興勢力と見做される。

 また、三代目で事業の基礎が固まる、とも言われる。

 三代目・足立良介は、歴代の足立家の婿としては特異な人物だと言える。なぜ特異なのか、はこれからゆっくり語るとして、未来はこの父親が大好きだった。

 あの父親が、若き日に、どういう気持ちで今日のような見合いの日を迎えたのだろうか。あの人の事だから、お金や家柄や社会的地位などが欲しくて足立家に来たのではないだろう。だったら、どういった目的で、まるで商談のようなこの見合いの席に臨んだのだろう。

 結婚相手の房子は、何かしら人を見下したような雰囲気のある女性だということは、会えばすぐに解かるはずだ。なのになぜ、そんな女性と結婚し、婿となり、今日までその夫婦関係が続いているのだろうか。


 「ちょっと、未来、貴女聞いているの?」

 埒が明かないとでも言いたげに、母は娘にそう言った。娘の、まるで上の空な様子に母はいらいらしている。

 「貴女、そろそろ考えてよ。今日の相手だって、悪い話ではないでしょう?それどころか、勿体ないくらいよ」

 「分かってるわよ」

 足立家の黒塗りの車が、正確に時を刻む高級なスイス時計のように、確実に見合いの場である高級ホテルへと向かっている。

 「未来さん」

 「何?」

 「現実をしっかり見据えて頂戴。あなたは、三十二にもなるのよ。すでに出遅れていることぐらい、貴女だって、、、」

 「やめてよ。そのことには触れない約束でしょう。だから、今日、わざわざ時間を取ったんだから」

 「忙しいのもいいけど、、、」

 (モノになるかどうかも分からないことに夢中になって)との言葉が口に出そうになるのを、辛うじて堪えて、母は娘に訴えるように言った。

 「お父さんは、ああ言ってるけど、わたしはね、貴女の今後の将来のことを、、、」

 「今日のお相手の写真、ちょっと見せてくれる?」

 母の話を遮って、未来は言った。

 手渡された写真は、今日までに何度か目にしてきた。

 最初のこの写真を見たときと、その印象は変わっていない。

 なんの変哲もない、普通の真面目そうな男が、仕立ての良さそうなスーツを着て

緊張した面持ちをこちらに向けている。

 多少、無理に笑顔を作っているようなその顔には、幾分かのへつらいが含まれているように、未来には見える。

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