第3話
未来もまた、足立家のルールに従って、家業を継ぐ運命にある。というより、
むしろ、未来の言葉を借りれば、継がされるといった方がいいのかも知れない。
足立家にとって結婚はビジネスそのものと言える。
結婚相手は、専門の仲介者によって、数多くの候補者の中から最も相応しい
何人かが母親の房子の元に知らされる。
大企業が、将来の幹部候補を中途採用するような慎重さで、未来の婿選びは
進んで行く。
進んで行っている、が。
当の未来は、全くと言っていい程乗り気では無い。
今までに既に三度の見合いをしてきたが、全て未来の方から丁重に断ってきた。
母親の房子は、そんな未来の気持ちを、深く考え気遣うことも無く、次々と
縁談を進めていった。
今日は、その四回目の見合いの日である。
未来には、下に弟が居る。
このことは、先に触れた。
全くのところ、奇妙、と言っていい。代々女系を保って来た足立家に、初めて
(初代を除いて)男子が誕生したのだから。
名を淳といい、明るくて朗らかな青年に育っていて、その性格を誰からも愛されていた。
(淳が家を継げばいいのに…)
見合いの場へ向かう車の中で、未来は溜息交じりにそう思った。今までに何度同じことを思っただろう。
足立家の車は、黒塗りのリムジンである。
ドアは4つのタイプで、やや小型だが、車内は総革張りになっていて、運転席と
後部座席とはレースのカーテンで仕切られている。
未来の隣では、母親の房子が居て、今日の見合いの相手について、先程から一人で
喋りまくっている。未来が、今日の見合いについてどう感じ、何を思っているのかなど、まるでお構いなしだ。
相手の男性は、一流の国立大学を卒業しているということ。
名前を聞けば誰もが知っている大手証券会社に勤務しているということ。
その会社で、不動産と証券に関わる仕事をしていて、その点、足立家の家業と関係
があるということ。
未来のことなど、まるで眼中に無いかのように一人で喋っている母の房子に、適当に相槌を打ちつつ、未来は父である良介の事を思った。
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