第2話

 初代が授かった三姉妹が、それぞれ二十歳を幾つか過ぎた頃には

彼のビル経営を中心とする事業は、既に相当の規模に達していた。

 当時は、日本が軍部の台頭により戦争へと突入していく暗い時代

だった。娘達を嫁にやったところで、相手の男が戦争にとられては

行く末心もとない。未亡人となって家に出戻ってくるだけでは、何の

生産性も無い。そこで、初代は考えた。


 女を中心とした家にすればいい。

 三姉妹それぞれを、嫁に出さずに家を持たせ、各自その家の当主

にする。

 そして、運良く戦争行きを免れた連中や、戦地に行っても何とか

戻って来た連中の中から優秀な男を選び婿にする。

 ビルに関して言えば、万が一建物が焼けてしまっても、土地だけ

は残る。資産がゼロになることは無いから、これらの資産を管理する

会社を設立して娘たちに管理させる。若しくは、実務は婿にやらせる。

 こうすれば、日本が戦争に勝っても負けても、家の保存と資産の

保全が出来る。


 足立家の初代・足立段平の狙いは、見事に当たった。

 段平の三姉妹全員が家を継ぐことは無かったが、長女のひさが

見事に切り盛りした。

 ひさの子供も女の子で、しかも一人娘だったので、女系で成功した

自然の成り行きでその子房子が家を継いだ。

 日本の敗戦、GHQによる占領、その後の朝鮮特需、高度経済成長

そして、バブル崩壊と、激動の時代を足立家は巧みに切り抜け、

その富を膨らませて行った。

 

 そして、房子に子供が授かった。

 奇妙な事に、初め双子が生まれ、そしてさらに、男の子が生まれた。

 この長女が、未来である。

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