灯火

藤原 紅

第1話 序章

 この先、自分はどうなってしまうのだろうか…?

 ぼんやりとした、取り留めの無い不安感が、未来を包んでいる。

 可笑しな家に生まれて来てしまった。

 後悔しようにも、どうしようもない思いが、未来の体を脱力させた。

 お祖母ちゃんも、お母さんも通った道だからと自分を納得させようにも、

上手く出来ない自分が居る。


 ピカピカに磨き込まれた黒塗りの車。

 母の代からの専属の運転手。

 香水やアクセサリーから下着まで、自分の体を埋め尽くす高級品。

 物質的には、むしろ、他人が羨む程の高級品で囲まれている。

 しかし、この言いようの無い淀んだ感じはなんだろう?


 淀み。

 そう、濁っていて、表面に少し油が漂っていて。

 食べるのに飽きたような、飲むのもウンザリするような、そんな爛れた感覚。



 未来は、足立家の長女だ。

 足立家は、未来が住む町でも有名な資産家の一族だ。山の手にある、所謂、選民地帯で大きな屋敷に住み、町にたくさんの税金を納めている。

 未来は、子供の頃から、周りが自分たち家族を見る目が違っていることを感じていた。

 代々、家が金持ちなのは、一つのステイタスなのだ。しかし、未来の場合は、それだけでは無かった。

 彼女の場合、将来自分がどうなりたいのかについて、自分で決められる自由が無かった。

 ゆくゆくは、自分が家業を継ぐ。なぜなら、自分は足立の家に生まれた女の子だから。

 周りもそのように自分を見、自分もぼんやりとそう考えながら、育ってきた。



 足立家は、代々、ビジネス街にいくつも大きなビルを持つ不動産会社を経営している。会社はそれだけでは無く、その不動産会社を中核とした企業集団を率いている。

未来で4代目だ。

 創業者の段平は、今でいうところの弁護士であり、職業作家でもあった。

 弁護士報酬と原稿料・印税を、せっせと銀行に預けることで財産を築き上げ

銀行に信用を得て、一等地に土地を購入しそこにビルを建てたことが、足立家の幸運の始まりであった。

 その後、積極的にビルを増やしていった段平だったが、一つだけ誤算があった。

 

 授かった子供は、全て女の子だったのである。

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