松木北高校の真実
7-1
幽霊騒ぎに片を付けた翌日、月曜に登校してきた生徒は驚いたに違いない。事務棟前にジャンプランプができ上がっていたのだから。
俺が校門を通り過ぎた時には、足を止めて見上げている生徒がちらほらいたぐらいだ。だけど何に使うのまではわかっていないらしく首を傾げている姿が多い。それは普通科の生徒ばかりなのは、スポーツ科から情報が伝わってこないからだろう。
事務棟のエントランスにサッチのパネルを飾ると聞いていたが、間に合っていないのでは知りようがない。
それでも放課後にテレビの撮影で使うといううわさは静かに広まっていく。それは俺にまで飛び火してきたぐらいだ。
昼休みに入り、木曽はパンを買いに行き、俺は先に屋上へ行こうと弁当を取り出す。そんな時に駒ヶ根から声をかけられた。
「放課後にテレビの撮影があるって聞いたけど、御代田先輩への取材なの?」
「そうだけど」
「やっぱりそうなんだ。絶対見にいかなきゃ。BMXやってる先輩ってかっこいいんだろうなあ」
静かに興奮しているのは、サッチがスポーツ科だからだろう。普通科の教室であからさまに楽しみにているとは言いづらい。
それにしてもたった一日でここまで懐くとは意外だ。高遠から守ってくれたサッチがヒーローのように見えたのかもしれない。
だけどサッチがBMXをやっている事や撮影の事を知っているのがなぜだろう。それを尋ねると、まわりを気にしながら小声で教えてくれた。
「ここだけの話にしてほしいんだけど、最近付き合いだした彼がスポーツ科なんだ」
「そこから聞いたのか。ていうか、俺に話していいの?」
「木島平ってスポーツ科の御代田先輩とか上田先輩とかと仲いいじゃん。そのうちバレそうだし先に釘さしとこうと思って。絶対に誰にも言わないでね!」
話したらひどい目に合わせる。そんな圧力を感じた。
「そんなに念を押さなくても話さないって」
「そうしてくれるとうれしい。ついでに言っておくけど、いくら良い人たちでもスポーツ科の人とおおっぴらに仲良くしない方がいいよ。クラスで浮いているのってそのせいだからね」
「え? 俺、浮いてるの?」
そんな事は初耳だった。俺としては普通に会話をしてるつもりだったけど、クラスメイトはそうではなかったらしい。思えば放課後に遊びに行った事もない。だけどそれは中学もそうだったし、毎日のようにやっているBMXの練習が楽しくて気にした事がなかった。
首を傾げる俺に駒ヶ根は止めを刺す。
「気づきもしないなんて信じられない。とにかく、そういう事だから。私は行くね。木島平と長く話してると私まで浮いちゃいそうだし」
俺のもとを離れた駒ヶ根がブラスバンド部仲間のところに行った途端、何やら質問されているように見える。内容までは聞こえてこないけど、何を話していたのか、といったところだろう。
それが呼び水となって今までの高校生活を振り返る。一学期を過ごしただけだけど、普通科とスポーツ科の間には見えない壁があると身を持って知った。
だけど、サッチや木曽、それに上田と大町のおかげで壁を感じなくなってきている。それでもそれは確実に存在しており、特に顕著なのが高遠だ。
高遠のせいで、とは言うつもりはないが、やっぱり松北はいびつだと思う。それがどうしても頭から離れなかった。
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