第2話
2
「すまないが、三人のステータスを見せてはくれないだろうか?」
「え……?」
ステータス。
不意のその言葉にドキリと心臓が飛び跳ね、嫌な記憶が脳裏を掠める。
「な、何でステータスを見せなきゃいけないんですか?」
動揺を隠すため、無意識のうちに強い口調で尋ね返してしまう。
そんな俺の態度に顔色一つ変えないオリヴィアさんは、冷静な調子のまま続けた。
「ああ、そうか。すまない、君たちはまだ詳しい事情を知らなかったね。そうだな……では、私達がこの村に来た経緯から簡単に説明しようか」
そう言うと、オリヴィアさんは俺たちの村に辿り着くまでの経緯を丁寧に
彼女の話は、こんな辺鄙な村で長いこと自活する俺たちにとって聞き慣れない単語だらけで、理解するのに少々苦労した。
と言う訳で、多分話半分にしか聞いていないであろうアリスに後々説明するため、自分なりに要約するとこんな感じだ。
彼女の所属する『アルカディア』のクランメンバーの一人が、数週間前にとある預言を示したらしい。
その人物は巫女と呼ばる者で『預言』を行使することでクランに貢献しているのだとか。
その巫女や『預言』の能力についての詳細は
『東に救世の者あり』
当初この預言の扱いについて、クラン内部では無視すべきとの意見が色濃かったらしい。
今回の預言は具体性に欠けるし、今まで預言が成就されない事もしばしばあったからだ。
しかし、預言を示した巫女の強い要望もあって、クランのメンバーから少数の遠征隊が組まれる事となった。
希望者を募り、預言にある『救世の者』を捜索するため、王都から東にある村や街を巡って人々のステータスを確認して廻る。
そして救世の者らしき人物が確認できたら、その人物をクランへと引き込む。
それが、現在の状況に行き当たるらしい。
なぜ『救世の者』を見つけ出すのにステータスを確認するのかと言うと、それが一番単純で手っ取り早いから。
強大なステータスを所持した者が近い将来、世界を救う存在となる——そんな推論には、少なくとも一定の説得力はある。
それに預言の内容に具体性が欠けている以上、他の手段で手掛かりを掴むのは困難だ。
「この村に来るまでにも大勢のステータスを確認し、数人の候補者を見つけるに至ったが……その者たちが預言の人物であるという確証は得られていない」
そう語り終えるオリヴィアさん。
確証なんてそう簡単に得られないと、本人も分かっているような声色だった。
それでも、王都から遠く離れたこんな辺境くんだりまで足を伸ばすとは、並々ならぬ覚悟だと分かる。
「勿論、ステータスを見せるかどうかは君たち次第だ。我々に強制する権利は無いからね、無理強いはしないよ」
「そうですか……」
その言葉を聞いて俺は内心安堵した。
もともと見せる気は無かったが、余計な衝突は避けられそうだ。
過去の経験上、ステータスが絡んだ話はロクな結果にならない。今回もきっとその
それに、ステータスを見せれば彼女たちは預言が正しかったと思い込むかもしれない。
なぜならうちの妹二人は——
「いいよー! ステータス見せてあげる!」
「ちょっ、お、お姉ちゃん!? ダメだよ勝手なことしちゃ……!」
隣で耳を傾けていたアリスが突然話に割り込み、止める間もなく行動に出てしまった。
「ステータスオープンッ!」
アリスの力強い言葉とともに空中に現れる半透明のウィンドウ。
このウィンドウこそがこの世でステータスと呼ばれるものだ。いや、正確に言えばそこに書かれている情報だが……
————————————
名前:アリス・カルセン
年齢:12 種族:人間
レベル:9
生命力(S):255
筋力 (S):235
魔力 (A):198
精神力(C):76
俊敏性(A):210
スキル「戦神の加護」
「雷魔法」
————————————
「なッ——!?」
オリヴィアさんの表情が驚愕に染まる。
鮮やかな翠色の目を丸くし、何度もアリスのステータスを確認していた。
その様子を見て背後の冒険者たちも何事かと集まり、俺たちを囲み出した。
「おいおい、嘘だろ……なんなんだこのステータスは!?」
「アビリティの期待値が軒並み高いだけじゃなく、Sが2つもあるなんてあり得ない!」
「いや、それより注目すべきはスキルです! 2つも所持してますし、戦神の加護なんて聞いたこともないスキルです!」
アリスを囲うようにして集まった冒険者達が一気にざわめき立つ。
その異常なステータスの高さに皆一様に驚愕している。
「えへへー」
驚き、色めき立つ冒険者達を前にアリスは相好を崩した。
だが、そんな無邪気な笑顔を見ながら、俺の胸中には焦燥が募っていた。
アリスは何の疑いもなく、簡単に自分のステータスを見せてしまったが、俺は父さんから妹達のステータスは極力秘密にしろと言いつけられていた。特に冒険者達には見せるなと。
その理由を今この瞬間に理解した。
アリスのステータスを知った今、アリスを見る冒険者達の目つきが変わったのが分かった。
さっきまでの興味本位の視線はどこかに消え、期待と興奮の眼差しを向けている。
それが何を意味するのか、痛いほど分かった。
彼らはもう、アリスに『救世の者』という役割を押し付ける気でいるのだ。
アリスがその素質を持っていると思い込み、冒険者として活躍することを期待している。
そして気づくと、アリアの周りにも他の冒険者達が集まり、ステータスを見せろとせがみ始めていた。
アリアはアリスと違って引っ込み思案で、人前に出るのが苦手なタイプだ。
注目を集めてしまう様な状況では、いつも困ったような顔をして俺の後ろに隠れる。
それなのに今、こんなにも多くの見知らぬ者たちに囲まれ、どれほど恐怖を感じているのか。
「す、ステータス、オープン……」
俺が助けに入るより早く、恐怖に負けたアリアが冒険者達にステータスを見せてしまった。
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