第18話:異常事態
グスタフが手勢を引き連れ、砦へと向かったあと、ジークはレッドフォード領で今後の方針を検討。
斥候によると、砦を囲むかのようにモンスターの集団が複数箇所に存在。
今のところ、本領へ攻め入る様子はないとの事だった。
この情報をつかんだジークフリード・レッドフォードは即、グスタフ砦への増援派兵を決断。
本領の守備は最低限に留め、敵情に異変あり次第すぐにジークが本領で対応するという基本方針が立てられた。
■
「差し当って――前線での対応はグスタフ様に御任せする」
緊急で参謀会議を開いたジークは、集まった面々にそう言った。
公的な場なので、兄呼ばわりはしない。
「我らは、この異常事態の根本的原因を調査する。そして、早急にこの異常事態を解決する」
参謀の一人が手を挙げて発言した。
「解決が不可能の場合は?」
「その場合はグスタフ様の指示を仰ぐ」
別の参謀が挙手し、発言した。
「調査と言いますが、一体どうすればよいのでしょう」
「それを考えるのは私だけの仕事か?」
「い、いえ。申し訳ありません」
一人の参謀が腕を組み、呟いた。
「情報が必要ですな」
そこから、参謀たちはなんやかやと話し合う。
「魔道兵団を組織して探知させてはどうだ?」
「いや、魔道兵にはグスタフ様への増援対応を優先させるべきではないのか?」
「しかし、人手が足りないな。歩兵の斥候だけでは距離的にも厳しいぞ」
結局のところ、会議の中で現状の打開策は出なかったものの、まずは情報収拾が先決であるという結論が出た。
「ジークフリード様」
軍議室から出たジークを迎えた皺ひとつない礼服を着こんだ銀髪の老人がゆっくり言った。
老齢に差し掛かったその男は老いを感じさせることのない、見事な礼を取った。
「なんだ、スミス。茶ならいいぞ。今は忙しい」
「王都から、宮廷魔術師の方がお見えです」
「魔術師?」
「はっ。なんでも、公爵家の事情についてお話があるとかで。今のところ、応接室でお待ちいただいておりますが」
「ああ……なるほど」
ジークは大きくため息をつき、言った。
「わかった、行こう」
応接室には一人の男がいた。
黒を基調とした、灰色の縁取りのローブを身にまとい、尖った鼻と大きな目をした、いかにもといった魔術師ふうだった。
「長くお待たせしてしまい、申し訳ない。ジークフリード・レッドフォードです。当主のグスタフは今――」
「いえ、こちらこそ急な訪問をお詫びさせてください」
魔術師は慇懃に頭を下げた。
「わたくし、デヴィッド・メガロフィア・ブラックロッドと申します。ご多忙の中、時間を割いていただき誠に申し訳ございません」
「何か持ってこさせましょう」
「いいえ、すぐに済みます。それに、これ以上貴方様のお時間を取るのも良くなさそうだ」
ジークは内心でほっと安堵した。実のところ、これ以上時間を取られるのはまずい。
「それでは、お話というのを伺いましょう――」
ジークは、己の腹部に衝撃を感じた。
最初は何か、分からなかった。
自分の腹に、短剣が突き刺さっている。
「ええ、もう済みました」
乱暴に短剣が引き抜かれ、おびただしい血が、腹から、口から、流れ出てくる。
止められない。
「き、貴様――なにを……」
なにが――起きている?
§§§§§§
(それにしても、本当になにがあったんだ?)
ソニアとまったく目を合わせることなく歩く。
そろそろ、村や集落があるからそこで休ませてもらおう。
そもそも俺がここに来させられてる時点で、兄2人はかなり忙しいのだろう。
ということは、レッドフォードで何か大きな事件でもあったのか?
(レッドフォードの、事件……?)
そういえば重大な何かがあったような……。
「ん……?」
遥か彼方に、何かが空へと立ち上っているのが見える。
「あれは……煙?」
ソニアがぽつりと呟いた。
どこかで、大規模な火災が起きているようだ。
嫌な予感に突き動かされ、俺は駆けだした。
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