第17話:絶望の「現実」
グスタフ・レッドフォードはモンスター集結の報せを受け、すぐにグスタフ砦に入った。
彼は斥候を派遣し、事態の把握に努めた。
その結果、集結点は砦の北であり、中央大陸とレッドフォードの地とをつなぐ関所が封鎖された形だった。
集結したモンスターは砦付近の丘陵地帯に潜んでいた。
元々図体の大きなモンスターである。発見は容易だった。
だが、凹凸の激しい地形、まばらに生えた木々や下生え、大岩などが邪魔になって、精強なグスタフ軍も下手に手出しすることは出来なかった。
そもそも、モンスターが集結するなどということは史上例を見ない。そして―――
モンスターの数は、少なく見積もっても500以上はいる。ということだった。
(逃げ道は塞がれたというわけだな)
もし、逃亡できるとしたらとっくにしている。否、しなければならない状況だ。
グスタフ・レッドフォードは武力一辺倒というイメージが浸透している。それは間違いではない。
しかし、それと同時に恥や外聞よりも、現実を重んじる漢でもあった。
自分の無謀に付き合わせて兵たちを無駄死にさせることに、恐怖すら感じていた。
そして、彼我戦力の差は論ずるだけ空しい。
それが、彼の置かれた「現実」だった。
楽観的に考えてみる。
騎馬隊を使って敵陣に穴を開け、そこから歩兵隊を突っ込ませて一気に突破する。
(いいや、無理だ)
グスタフの戦場指揮官としての能力は、即座にそれを否定した。
騎馬隊を突っ込ませて――レッドミノタウロスやガルーダなどが大人しく退くだろうか?
騎馬兵の突撃にも耐えうる頑強さ、飛行して逆に奇襲できる能力を持ったモンスター達だ。
(かといって、足を止めて戦ったとしても駄目だ)
どの地点にも対応できるほどの戦力はない。
いまの最善手は砦の防御力をアテにして立てこもり、本国からの援軍を待つ。
「このままじゃ、包囲されてなぶり殺しにされるか、食料が尽きてしまいます」
副官が泣きそうな声でグスタフに言った。
彼はレッドフォードには珍しく理知的なのだが――ここにきて、裏目に出ているようだった。
完全に戦意を失っている。
当主の副官がこれではまずい。気分が兵士にうつってしまう。
「わかっている」
「本陣の――ジークフリード様に増援を求めましょう」
(それで、何になるというのだ)
グスタフは言わなかった。
レッドフォードじゅうの兵士が全て集結したところで、とても対応しきれない。
集結地点の一つ程度なら潰せるかもしれないが、それで生じる被害は壊滅的だろう。
それでも―――まだ無数のモンスター群がある。
なんの意味も無い勝利と引き換えに、兵士の命すべてを差し出すことなど出来ない。
「どうするんだ?あんな数のモンスターが一気に攻め込んできたら――」
「あんな奴ら、とっととなで斬りにしてしまえばいいんだ!」
「まさか、こんなところで終わりなのか?俺達、今までなんの為に戦ってきたんだよ……」
兵士達の士気は、みるみる低下している。
(すまん、ジーク。すまん、エルト。後は任せるぞ)
内心で詫びをすませ、グスタフは玉砕を覚悟した。
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