第15話:ラナス盗賊団との戦い
「こ、この女……ケガしてから泣いたって、許してやらねえぞ!」
小男が短剣を前に突き出しながら甲高い声を張り上げる。
それには応えず、私は槍を繰り出した。
「〈払い打ち〉!」
足元を狙い槍を振り回す攻撃だが、思ったより盗賊の身長が低かったからなのか、私の技量の問題なのか、胴にしたたかな一撃を加えてしまった。
「ぐわぁ!」
思ったより簡単に盗賊の一人は吹っ飛んだ。
「いてぇ……いてぇよぉ兄貴……」
「な、なにやられてんだお前!バカ!」
盗賊たちが揉めている。
まさかこんな小娘にやられるとは夢にも思っていなかったのだろう。
さてどうするか。
もう一人の盗賊もやっつけてから、安全にこの場を去るか、急いで馬を拘束している縄を切って逃げ出すか。
自分でも意外なほど冷静に、この場をどうするのかを考える。
「お転婆なお嬢さんだねぇ。まさか魔法も使わず、武器で挑んでくるなんてさ」
女の声がした。
その声からは余裕のあらわれだろうか、下卑た響きを含んでいる。
「でもねぇ、そろそろ大人しくした方がいい。アタシらは単なる野盗じゃない。ラナス盗賊団だ」
「ラナス……あの、元魔法具工房の?」
「お、よく知ってるねぇ。感心感心」
数年前まではロギスラントでそこそこの魔法具を作っていた工房がある。
だが、その工房も激化する開発競争で負けて落ちぶれ、工房にいた人間はみな流浪の身になったと聞いた。
それが、野盗になっていたとは。
いずれアルドリッジ公爵家を――ひいてはロギスラントを預かる者として政治経済や情勢に目を光らせてはいたものの、まったく知らなかった。
「これが分かるね?」
手に持った杖をこれ見よがしに見せびらかしてくる。
「炎が飛び出す、ステキな魔法具さ。これ以上抵抗するなら、火あぶりぐらいは覚悟するんだね」
杖の先端には赤く輝く珠がはめ込まれていた。
きっと魔法具を起動すれば、炎が飛び出す単純な魔法が仕込まれているのだろう。――今の私には、そんな単純な魔法具すら使えないが。
「そっちこそ。これ以上来るなら命はないわよ」
意地を張って槍を構えなおす。
盗賊頭――ラナスは口の端を吊り上げ、嗜虐的にほほ笑んだ。
「お前ら、間違っても殺すんじゃないよ」
「へい!」
ラナスの背後から、いくつもの男の声がした。
その男達が持っている武器は短剣などではなく、杖だった。
もちろん、先ほどラナスが見せた魔法具と同様に、破壊目的の違法魔法具だろう。
(野盗が魔法具を使うなんて……)
ロギスラントで暮らしを助けている魔法が、外では人を害するだけの道具と化している現実。
暗い影が心に落ちる。いけない、今は戦いに集中しなければ。
「〈雷撃〉!」
飛び出してきた盗賊の一人が、魔法具を起動させた。
稲光がこちらに伸びてくる。
しかし――それだけだった。
痺れるどころか、痛みすらない。
「……?」
不審に思って固まっていると、盗賊たちは怯んだと見たのか一斉に私に向かって魔法を放ってくる。
「〈氷撃〉!」
「〈石撃〉!」
「〈炎撃〉!」
「〈雷撃〉!」
種々様々な魔法が放たれる。
それらは間違いなく、私の身体に触れている。
だが――やはり、それだけだった。
「…………〈二段突き〉!」
盗賊の一人に、槍の穂先で足元、喉元の順で突く。
「ぐわぁあっ!?」
あっけなく、一人は血を吹き出し、
「な、なにっ!?」
ラナスが驚愕している。
怯んだのは盗賊たちも同じだった。
「〈払い打ち〉!」
その機会を逃さず、盗賊の一人に槍を足元をしたたかに打ち据える。
「うぐっ!?」
攻撃を受けた盗賊はもんどりうって転げまわり、他の盗賊たちの戦意を削いでくれた。
「ど、どうなってんだい!魔法が効いてないだと……!?」
(一体、なんなの?これは……)
何が起きているのか分からないのは私も同じだった。
「クソが!構いやしねえ、ブン殴っちまえば――」
「〈滅閃・走駆〉!」
「ギャァァァァァァァ!!?」
けたたましいモンスターの悲鳴。
「な、なんだ!?今度はなんだっていうんだい!」
ラナスがうろたえている。
見れば、バジリスクが真横に切り裂かれ――倒れ伏した。絶命したらしい。
バジリスクを背後に剣を振りぬいた、貴族風の男がこちらを見まわす。
「おお!?」
そして誰もが驚愕している中、最も驚いたような声でその男は私に向かって笑顔を作り、言った。
「これはこれは、ソニア様!私、エルトリッド・レッドフォードと申します!以後お見知りおきを!」
……底抜けに明るい声に拍子抜けし、ぽかんとしてしまう。
「レ、レッドフォード……?あの『荒くれ』一家か!」
誰かが言った。
エルトリッドと名乗った男は怒るでもなく、苦笑していた。
「くそっ、仕方ない。引き上げるよ!」
ラナスがそう言うと、盗賊たちは一斉に走り去っていく。
「お見事です、ソニア様」
すかさずエルトリッドが言った。
「盗賊ども相手にあれほどとは」
「……あなたが、それを言うの?」
哀れなまでに真っ二つになったバジリスクを横目に、私は言った。
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