第10話:兄との邂逅・ジーク編
「戻ったか、エルト」
ようやく屋敷に辿り着き、こっそり自分の部屋を探そうと思っていたところ、領地の前で仁王立ちしていたイケメンに話しかけられる。
「一体、今まで何をしていた?何の連絡も無しに2日も家を空けるなど、どういうことだ?」
え、2日!?そんなに時間経過してた!?
とは言えない。不審の種をこれ以上ばらまきたくない。
それに、転生前から外出してて、それで2日目かもしれないし……。
しかしこの物言い、この風雅な顔立ち。
間違いなく次男のジークフリード・レッドフォード。
美貌が放つ氷のような眼差しはキツいね、どうも。
しかし、俺の肉体は若々しい貴族だが、精神の方は枯れたおっさんなので特に動じない。
何をしていたかを正直に、端的に言えばきっとすぐに解放してくれるさ!
「その……モンスター討伐の鍛錬です」
俺は日和った。
いや、間違いなく討伐してたけども、特殊ポータルを狩りに使っていましたとは言えない。
「鍛錬?お前が?」
疑わし気に眉を顰めるジーク。
まあそりゃそうだよなぁ。うん。グスタフの言葉っぷりから、相当遊び惚けてたっぽいしなぁ
「お前、まさか……いまさら家督を継ぐ権利を主張するつもりじゃあるまいな。そうなれば容赦せんぞ」
「い、いやいや!そんなつもりは毛頭ありません」
話がとんでもない方向に行こうとしている。
「ら、来年には自立して、家を出ます。私は騎士として未熟ですから、兄様達の足手まといにはなりたくありません」
「……」
ジークはぽかんとした表情をした後、すぐに表情を引き締めた。
「お前のやっていた鍛錬内容はなんだ?どこで何をしていた?言ってみろ」
いきなり、一番聞いて欲しくないことを聞いてくる。
大方、適当な言い訳で悪さを誤魔化しているとでも疑われているのだろう。
だとしたら8割方合ってる。
くそっ、流石はゲーム中でも頭脳派と名高いキャラなだけあるぜ。
「〈帰らずの森〉で……雑魚モンスターを相手にしていました」
俺が出せる最大限の情報だった。
「なんだと?お前、森に入ったのか!」
ジークはそう言うや否や、素早く距離を詰めて、俺の肩を掴んだ。
「危険だと言ったはずだ!あの森に入るなと散々言ってあっただろうが!!」
その怒鳴り声は、俺の知る冷酷非道のジークフリード・レッドフォードではなかった。
まるで、いたずらをした弟を叱る兄。
――ジークもお前の事を心配していた。
ああ、そうなのか。本当に、そうだったのか。
「……申し訳ありません、兄様。気が逸りました」
俺にとっては単なるゲームのレベル上げ。
だが、ジークにとっては違う。現実の――戦闘なのだ。
「チッ」
これ見よがしに舌打ちをして、ジークは肩から手を放す。
それからジークはさっさと屋敷に引っ込んでしまった。
「ツンデレのイケメンだと……?」
なんだ。
案外普通の「おにいちゃん」だったのか。
戦闘狂っぽいイメージのあるグスタフも、陽気でおおらかな「良い兄貴分」というのがしっくりくるし。
この世界に来て最初に話したのがこの人たちで本当によかった。
俺は、2人の兄に意外なほど親しみを感じていた。
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