第11話:折り返し地点

 グスタフとジークとの初邂逅は、こうして終わり、しばらくの時間が経った。

 もっと上手いやり方があったような気がするが――今となってはしょうがない。


 そんなことよりも――――



「〈七星破衝〉!」


 剣を構えて飛び掛かり、6つの分身+自分自身で取り囲み、一斉に斬りかかる。

 一度に7つの斬撃が、〈獰猛なるラウンバルト〉という名を得たスライムを襲い――スライムは消滅した。


 結局のところ狩りたい欲が我慢できず、懲りずに特殊ポータルのところにやってきていた。

 あれほど心配してくれたジークには申し訳ないが、〈帰らずの森〉にはそこそこレアなアイテムがそこそこな数存在しているため、ゲームで何度も行ったり来たりしているため、それほど問題ではなかった。


 バレないようにやる必要はあるが。


「ネームドのモンスターが出てくるようになったか。俺も少しは強くなってきたか?」


 ネームドのモンスターは、その原種となるモンスターの数倍~数十倍の強さを持つ、これまた特殊なモンスターだ。基礎能力値が強化されているだけでなく、魔法やスキルを覚えている場合が多い。

 特殊ポータルが特殊たる所以ゆえんは、こういう中々お目にかかれないモンスターも排出するところにもある。


「しかし、ネームドのモンスターねえ……」


 別に名前が表示されるわけではないが、相対した時、脳裏にその名が思い浮かんだ。

 ゲームの登場人物たちはこうやって名前を知っていったんだろうか?


 こいつら、ドラゴンより強いんだよな?ドラゴンって、もっとこう……特別な存在というか……。


「……まあいいか」


 ともかく、前回のドラゴン達との戦闘で剣がボロボロになってしまった教訓として、屋敷から〈騎士の剣〉を10本ほど拝借し、これを使い切るまでは稼ぎに徹することにした。

 特殊ポータルの計算式は、武器だけは計算外なのでどれだけ持ち込んでも変わらない。

 せっかくならもっと強い武器が欲しいところだが、現状では無い物ねだりだ。


 持ち込んだ剣は、今6本目。5本破損した。

 折り返し地点というところだろうか。

 しかし、自分が果たして初期状態からどれほど強くなったのかよく分からない。

 ステータス画面や数値が出てくれるわけでもないし。


 とりあえず、必須とされる剣技である〈クロスラッシュ〉〈返し二段〉〈龍閃・無明〉〈神威の剣〉〈暗闇の太刀〉〈滅閃・走駆〉〈烈光剣〉〈七星破衝〉までは習得したようだし、上々の成果と言えるだろう。



 しかし、ここでどれだけ強くなろうとも、お金持ちにはなれない。

 ポータル湧きのモンスターは倒してもお金をドロップしないという特徴があるのだ。


 では、どうしてこんな稼ぎをしているのか?


 それは当然、いわゆる自然湧きのモンスターを倒せる実力が欲しいからだ。

 そして、自然湧きのモンスターを狩れるようになれば、それで生計を立てる。

 あとは――どうしよう?特に何も考えていない。

 まあ隠居だな、隠居しよう。


 この後世界がやべーことになるけど、それはきっと主人公がなんとかうまいことやってくれるだろうし。



 更にしばらくの時間が経過した。


「うーん、頭打ちかなぁ」


 特殊ポータルを使った狩りも遂に佳境を迎えた頃合いだった。

 モンスターが強くなり過ぎていたので、これ以上はあんまりうまみが無い。


 そして、身体的にどんどん強化されていくのもわかるのだが、剣技と体術以外が育たない点もよくない。

 槍や斧のレベルが初期段階なのと同じように、魔法のレベルを上げたいのなら魔法を使わないことにはどうしようもない。


 この世界は圧倒的に魔法使い優遇社会なのだ。魔法が使えない人間は、結構生きづらい。

 このままでは結局、負け組社畜の頃とあんまり変わらない人生を送ってしまいかねない。


 ここを卒業し、新たな「狩り」を模索するべき時なのかもしれない。


「……引き上げるか。ありがとう、特殊ポータル」


 お前はまさしく、俺の強敵ともだった……。


 しかし、俺って他の人たちからどう思われてるのかねぇ。


 ふとそんな考えが頭をよぎる。

 なんとなく、これから人付き合いで苦労しそうな気がするなぁ……。


 §§§§§§


「……はあ。ようやく着いた……ここが、レッドフォードの地……」


 駄馬と共に進んできた旅路はようやく折り返し地点とも呼べる頃合いだろうか?


 正直、既に心が折れそうだった。

 精神的な事よりも、今は身体的な無理の方で手一杯だった。


「なんで……街道が整備されてないのよ……」


 馬車と魔法具に囲まれた生活を送っていた公爵令嬢であるソニアは、慣れない――本当にやったこともない――獣道の旅路に嫌気がさしてきていた。

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