第8話:専門用語を使われるのは普通に嫌

「はあ、はあ……」


 疲労が溜まってきた。息も絶え絶えになる。


 戦闘が……終わらん!!


 あれからどれほどの時間が経過したのか?まったくわからない。


 竜の方は、持って生まれた強靭さだけでも異次元の強さだろうに、防御系のスキルを情け容赦なく使ってくることで中々致命傷を負わせられない。


 こちらも戦闘中、攻撃しつつ回復する剣技である〈神威の剣〉を閃いたことと、『戦術』を〈鉄壁〉にしたことで、中々死なない。


 ざっくり言うと、戦闘の流れとしては竜が攻撃しながら付加効果スキル使用。俺は回復しながら付加効果消しに追われる。

 それがずっと続いている。


 イベント戦闘なのか?というぐらい時間が経過している。

 丸一日使ってるんじゃないのか?


 しかし、それでわざとやられてイベント戦じゃなかったら俺は無駄死にするだけだ。

 なので手は抜けない。本当に死んだらどうする。



『これほどまでに……これほどまでに強い人族は今までいなかった……』


「!」


 イベント戦終わりか!?

 思わずメタ的な思考を咄嗟に巡らせた俺は、竜の言葉に全神経を集中する。

 竜の声も、今となっては地獄に垂れる蜘蛛の糸だ。



『貴様に問いたい。なぜ、我らが同族を狩り続けた?』


「……」


 え、言葉求められてる?

 今まで世界観ぶち壊すことを警戒してあんまり喋らなかったのに。



「そこに……竜がいたからだ」


 どこの登山家だよ。

 これだからコミュ障オタクは喋るとロクなことにならないんだよ。

 受け答え用意しとけや。


 心の中の俺がめちゃくちゃ責め立ててくる。


 いや、本当のことだし……。ポータルから湧いてきたのがたまたまドラゴンだったわけで……。



『人族の領域を守りたい……ということか?』


「……そうだ」


 竜が、少なすぎる俺の言葉を補完し、拡大解釈した。

 そんな高尚な事は全く考えてなかったが、そういうことにしておこう。


『そうか……では、こうしよう。我と貴様で【盟約】を交わそうではないか』


「盟約……?」


『貴様に我の象徴、【緋の紋章】を与える。その紋章に力を込めよ。我の力、その一端がお前の手に握られる』


 ……なんの話?

 つまり……竜が俺の力になってくれるってこと?

 なにそれ。そんな隠しイベントデータあったの?


「……お前は俺に何を求める?」


『この地、レッドフォードは我の守護領域。お前もまた、この地を守護領域とする人族だろう?』


「しゅ、守護……?」


 守護領域とはなんのことだろう?


 俺の守護領域?

 レッドフォード家は、その名の通りレッドフォードの地で昔から住んでいたから……まあそういうことに……なるのかな?


「そ、そうだな。守護している」

 適当な返事だがとりあえず、無言よりはいいだろう。



『我の望むはこの地の安寧。だが、我が顕現するには依り代となる魔力が足らぬ』


「……」


『我の不在によって、魔物が蔓延っている。だがお前一人では荷が重いだろう。我が力の一部を使い、安寧を守護せよ』


「……」


『お前がこれから宿す【緋の紋章】を使えば、我らが叡智、〈竜魔法〉を発現することが出来る。決して使い道を誤るな、人族の子よ』


「……」



 え、なに言ってんの?

 専門用語を連発して初心者置いていくのやめてくれない?

 そういう害悪オタクが初心者の入りづらい環境作ってるの、わかる?


 心の中では混乱しつつも、心の中のオタクが早く何か発言を返せと急かしてくる。



「……わかった」

 嘘だった。何もわかっていない。

 こういう嘘は誰も幸せにしないとわかりつつ、つい言ってしまうのが人間の愚かさだね。


『よかろう。盟約は成った』



 竜の言葉を最後に、光が視界を包み込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る