第7話:専門用語を使うのは楽しい。オタクだから

「なんとかなるもんだ」


 ドラゴンは物理攻撃寄りの高耐久型モンスターだった。

 そうと分かればあとは早かった。


 物理攻撃を無効化する〈バニッシュオフ〉の確率を高めるために自身の『戦術』を〈鉄壁〉にして、〈ヘルムクラッシュ〉で防御を下げてから多段攻撃である〈返し二段〉で攻め続ける。

 そうすれば、戦闘後の回復でケアできる程度の損害でドラゴンを倒せる、ということが分かった。

 即死属性付きの〈ヘルバイト〉さえ気を付ければ、あとは流れ作業的になんとかなる。


 ……どうにも専門用語が多いが、オタクというのはこういう用語を用いて解説するとき、妙にハイテンションになるものだ。



 対ドラゴン戦法を確立させて、どれほど狩っただろうか?10体ぐらいかな?


 実は、〈ウィズダム戦記〉におけるドラゴンは確かに終盤の敵だが、イベント戦でモブ達を蹴散らす役どころを持ったモンスターだった。

 なので、正確にはドラゴンの強さが分からない。


「まあ、普通にレッドフォード周辺の敵の方が強いだろうな」


 確かに、特殊ポータルを使い、気が済むまで(済んでないが)狩り続けはした。

 だが、それでも〈ウィズダム戦記〉全体の敵経験値などから考えて、この程度の狩りで本来ゲームでは終盤にやってくるような場所のモンスターを倒せるなどとは考えていない。


「ドラゴンから種類が変わったら一旦退却するか」


 これ以上種類が変化したら狩れるという確証はない。

 というか現時点でなぜドラゴンが出てくるのか皆目見当もつかない。



『【仮初のもの】共とはいえ、これ以上同族がやられるのを黙って見守るわけにはいかぬ』



 それは声ならぬ声。

 耳ではなく、心で感じ取った声――そんな風に感じた。


「誰だ!?」


 というか、何だ!?

 こんなイベントあったか!!?



『不遜なる人間。お前は狩る者か?』


「え!?」



 なんだ、この、「すごくそれっぽい」セリフ。

 めちゃくちゃテンション上がる。



(狩る者?まあ確かに経験値狩りはしてるけど、そういう事じゃないよな?)

 世界観を守りたい――そんなオタクの心境から選んだ行動は、沈黙だった。


 決して、初対面――対面してないが――の相手に緊張して上手く話せないコミュ障オタク特有のテンパりではない。



『竜を狩る者。その力の源を我に示して見せよ!』


 強く「響く」言葉が全身に響き渡ったかと思うと―――そこは宇宙空間だった。



(え?なにこれ?)



 今までいた、暗く湿った洞窟から一転、宇宙空間である。

 しかし、身体は動かせるし呼吸も出来るし、足は地面についている感覚がする。


(ラスボス空間か?)



 ウィズダム戦記のラスボスは、詳細は省くがエモい演出の後―――宇宙っぽい空間に飛んでから戦闘となる。

 まあゲームだし、壮大なBGMもかかるからテンション上がるし、ゲーム中は野暮なつっこみ無用とばかりに無視していた。

 その空間に酷似している。


 そしてその空間に、先ほどの赤い竜――の、上位種であろう竜がいた。


 まず、デカい。

 そして、さっきまでの竜は体表が赤かったが、こいつは本当に炎を纏っている。尻尾の先端には青い炎が灯っている。

 妖しく輝く両眼が俺を貫き、岩石すらかみ砕くであろう牙を見せつけるように大口を開けた。



「〈ソウルヴォイス〉!」


「む……!」


 その姿に圧倒されていると、スキルを発動したようだ。てっきり、ファイアブレスでも吐くのかと思ったが。

 味方全体に自動回復効果を持たせる、かなり強力なスキル〈ソウルヴォイス〉。

 ボス敵に使ってほしくない技ナンバーワンである。


「〈ガードウィスプ〉!」


「なにっ!」


 次に、確率で物理攻撃を無効にするスキルを発動させた!

 こいつは、やばい。


(戦い慣れしてる)


 初手で防御を固めるのは、ウィズダム戦記で強敵と戦う際の鉄則だ。

 豪華絢爛といった佇まいから、この基本に忠実な戦術。


(か、勝てないかも……)


 だがこちらにも、ゲームを続けて20年間という意地と誇りがある。


「〈龍閃・無明〉!」


 一気に距離を詰めて、突き、斬り、薙ぎ払いの三連打を放つ。


(頼む、通ってくれ!)


 俺は「お祈り」をした。

 なんとか〈ガードウィスプ〉に阻まれず、攻撃が通った!――ことに安堵しつつ、次の「お祈り」だ。

 これは単なる三回攻撃ではなく――実際には攻撃判定は1回しかない――相手の付加効果ひとつをランダムで打ち消すことが出来る。


 せめて〈ソウルヴォイス〉の効果だけは打ち消さないと勝ち目はない。


 いくばくかのダメージは与えたようだが、どちらの効果を打ち消したのかはわからない。

 次に、どうするか……。



『なるほど……単なる戦士でもないようだ』

 不意に、竜は『言った』。


「そっちこそ。単なる力自慢じゃなさそうだ」

 思わず不敵に返してしまったが、心からの言葉である。


 さっきまでのドラゴンは単にランダム行動っぽかったが、こいつは明確に俺を殺すために思考し、行動している気がする。


(こんなやつに……本当に勝てるのか?)

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