第6話:特訓、そして

 電撃めいた閃きが頭をよぎる。


「〈滅閃・走駆〉!」


 残像を出すほどの速さで敵陣を駆け抜け、剣を振るい―――先ほどまで立ち並んでいた5体のゴーレム達は横一文字に切り裂かれて消滅した。



 あれから、どれだけこのポータルで稼いだだろう?

 リアル時間で考えればたぶん2、3時間だろうか?

 いや、俺がゲームで稼ぎをしてる時の時間感覚はまったく当てにならないから、もっと経過してるかもしれない。


 この〈帰らずの森〉にある特殊ポータルを利用した稼ぎは今のところ順調だった。

 通常、ポータルから出てくるモンスターの種類は固定であり、「地獄の辺境」とまで呼ばれるレッドフォードの地で出てくるモンスターとなれば、まず高難度のやつらばかりが出てくる。


 だが、この特殊ポータルにはルールがある。


 1.ゲーム中、敵と戦った回数

 2.現在装備の防御力と耐性

 3.パーティ人数


 上記3つがそれぞれ高い数値であればあるほど、このポータルからは強いモンスターが出てくる。

 最終盤に配置されているポータルなので、通常、ものすごく強い奴らばかりが出現してくる。

 これを稼ぎに使おうとすると、ギリギリまで装備とパーティ人数を抑えて短時間のゴリ押しをするというのが常套手段だ。

 この特殊ポータル稼ぎは難しく、複雑な計算式をノートにメモしながら緻密な計算のもとで行われる。


 だが、今の俺はゲーム開始直後。なんの計算もしなくてもいい。

 最初は最弱のスライムが出てきて、あとは俺が成長するにつれてモンスターは強くなってくれる。


 中盤クラスの敵、ゴーレムが複数体で出てくるようになったから、まあまあ強くはなったかな?

 あの複雑極まりない稼ぎは10年ほど前に一度試みたが、面倒くさすぎて二度とやらなくなってしまったから計算式までは覚えていない。


 ゲーム中であればレベルアップに最大まで回復すること、戦闘終了後も小回復してくれるので勢いに乗ってずっと戦ってしまった。



 ……いや、違うな。

 楽しいんだ、こうやってウィズダム戦記のシステムで戦うということが。


 身体を動かして戦うことになんの違和感もない。前世ではコンビニ行くのすら気怠かったというのに。

 その理由は楽しいから。

 そして、よく知ってるから。

 俺の20年間はけして無駄じゃなかった。そう思えることが、本当に嬉しい。



 ゴーレム数体を倒してから数秒考えこんでいるうちに、また敵が湧き出てくる。

 まだはっきりとした姿が見えないが、数は1体。


 光に包まれている。


 こんな演出あったっけ?しかし、シルエットは見える。翼を広げた鳥のように見える。

 また敵の種類が変わったらしい。

 敵が何なのか確かめたい気持ちはあるが、逸る気持ちを抑えられず、そのまま剣で斬りかかる。


 斬りかかる途中、相手がこちらを見据える。

 鋭い眼光が俺を貫くようだった。だが妙に興奮した俺の頭脳は冷静な判断よりも直感による攻撃を選んだ。


「〈ヘルムクラッシュ〉!」


 大上段から剣を叩きつけるように振り下ろす豪快な一撃。


 頭蓋を叩き割る―――ような斬撃で、攻撃した相手の防御を下げる剣技だ。

 最初に防御を下げておいて一気呵成に攻める戦法。

 蛇が出るか鬼が出るか。


 確かな手ごたえと共に鈍い音が鳴り響く。


 戦果を確認するべく、もう一度敵を凝視する。光は収束していた。


 燃え盛るように赤い体表があらわになり、獰猛な牙、羽毛の代わりに頑丈な鱗が身体を覆っている。




 ドラゴンだ。




 え、今?お前終盤のやつじゃないの?



 間抜けた感想を内心でこぼしながら、咄嗟に身構える。

 それとドラゴンが反撃を行うのはほとんど同時だった。


 風切り音に死の予感すら感じさせ、全身に総毛立つ。


「〈バニッシュオフ〉!」


 ドラゴンは尻尾を薙ぎ払い――それに合わせて剣を振るい、攻撃をかわす。

 自動発動型スキルだ。助かった。


 そう思ったのもつかの間、今度はドラゴンが大口を開け、灼熱の炎を吐きつける。


「2回行動……!」


 今度は反応することもできない。

 それに、剣技〈バニッシュオフ〉は物理攻撃には反応できる可能性があるが、それ以外の攻撃には無力だ。


「クッ……」

 全身に痛みが走り、その後で熱さを感じる。


 ……反撃系スキルが通用しない代わりに威力は低いのか。などとゲーム的にドラゴンブレスを分析してしまう。


 でもそれならば、戦いようはある。


「……こうなったら、とことんやってやる!」

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