第5話:レッドフォードの人達

「グスタフ様!近隣の兵から報告が入りました。北方方面にレッドミノタウルスが多数出現しているとのことです!」


 屋敷の庭で早朝から鍛錬をしていたグスタフは額の汗を拭った。

 その後、何事も無かったかのように、グスタフ・レッドフォードは即断した。


「少しは楽しめそうなやつらだな。第1から第3小隊に出撃準備をさせろ!俺も出る」


「ハッ!」


 伝令の兵が駆けていく。

 通常、貴族の当主が自ら出撃してモンスター討伐を行うというのは考えられない愚行ともいえる。

 それで死んだりしたら?ケガでもしたらどうなるのか?

 ケガを治せば終わり、というわけではない。モンスターにケガを負わされた、という汚名が残る恐れすらある。


 だが、レッドフォードに生まれた男児たちは身体的なケガを恐れる者は誰もいない。

 むしろ、そうした危険から逃げる者こそが汚名を被せられ、正面から受けた傷などは誇りですらあるという風潮だった。

 だからこそ、他の諸侯から「荒くれ」という烙印が押されるのだが。


「兄様」


 凛とした声がグスタフの背後からかけられる。

 金髪を靡かせた、この家には珍しく鎧かぶとが似合わない貴公子。

 頼れる弟、ジークフリード・レッドフォードがそこに立っていた。


「どうした、ジーク。俺の出陣には反対か?」


「はっきり申せば反対ですが、無駄なことも嫌いなものでしてね」


「その通り、反対しても無駄だ。どうだ、お前も来るか?レッドミノタウロスの集団をやったとなれば、お前にも箔が付くだろう」


「やめておきます。足手まといですから」


 二人して笑いをこぼす。

 ジークフリード・レッドフォードに今更箔が必要ないほどの戦功があることは、誰もが知っている事だ。

 気心が知れている二人だからこその、軽口の応酬だった。


「ところで、エルトはどうした?昨日は顔を見なかったが」


 グスタフがそう言うと、ジークは顔を曇らせた。


「まだ帰っていないそうです。あのフーテン者は」


 ジークはエルトを嫌っていた。

 無理もない。グスタフとジークはレッドフォードを治めるために幼少の頃からずっとモンスターを討伐したり、兵を率いるための勉強をしたり、魔法を学ぶために留学したり……苦労に事欠かない生活をしてきた。


 だが、三男であるエルトリッドはどうにもそういった活動にやる気を見せなかった。


 一応、剣の稽古をつけてやったり、魔法を学ばせてみたりしたが、どれもイマイチぱっとしない成績であった。

 いかに貴族といっても、エルトはレッドフォード家の三男であり、そうであるからには、無為徒食を許すわけにもいかない。


「一度、話をしてみんとな」


「私がしておきます。家に留まる努力をするか、さもなければ追放すると」


 グスタフは苦笑した。どうも、ジークは必要以上に冷酷な物言いで反感を買ってしまうところがある。

 ジークは確かにエルトを嫌っているが、憎いわけではない。

 戦えない者はレッドフォードで死ぬ危険性が高い。ことに、それが戦場で兵たちの前に立つべしと教わっている者ならば。


 おおかた、エルトが望むなら行儀見習いなどの理由をつけて他国へ逃がしてやろうとしているのだろう。


「話をするのはいいが、俺抜きで結論を出さないでくれよ」


 まあ、あいつが望むなら、他国に行ってのんびりするのもいいだろう。

 グスタフはそう言って、頭を戦場指揮官のそれへと切り替えた。

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