第3話:見覚えのある景色
「……ん?ここどこだ?」
見た事もない青空が広がっている。
青空なのに見た事もない、というのは、あまりにも周囲の雰囲気が日本じゃないようだったからだ。
それにしてもスマホ無しで起きたのは久しぶりだ。太陽の日差しが暖かい……。
「……ん?スマホ……?」
スマホが無い。
いやそれどころか、周囲は草原だった。
青々とした名も知らぬ草が生い茂っており、今まで草を枕に寝ていたようだ。
「これは夢か……?」
そういえば、妙に身体が軽い。
いつもの倦怠感や頭痛が一切なく、最近膨れ上がってきた腹回りも引っ込んでいる。
視界の端に映る髪色は見た事もない真紅の色をしている。
「夢か、夢だとしたら起きなきゃいけないなぁ」
さっさと起きて仕事に行かねば、先輩と上司に死ぬほどどやされてしまう……。
§§§
あれからどれだけ待っても、歩いたり走ったり、飛んだり跳ねたりしても、目が覚める気配はなかった。
むしろ身体が軽快で、いい汗をかいてしまった。爽快感すげぇ。
「もういいや、夢でもなんでも」
考えるのが面倒になり、草原の中をとにかく歩き回ってみることにした。
だって、こんな気持ちのいい大自然の中なんだぞ。
少年時代に戻ったかのように、無邪気を楽しんでみよう。
そして、夢中で歩き回っていると、腰に剣を佩いている事に今更ながら気づいたのだった。
「うわっ、なんだこれ」
間抜けな声を出しながら柄を握り、僅かに鞘から出してみる。
本物の剣だ。刃がある。斬れるやつだ。
いやそれよりも、この剣のデザイン。
「これ……〈騎士の剣〉か?」
めちゃくちゃ見覚えがあるデザイン。主人公が序盤で手に入れる主力武器……。
「ウィズダム戦記の〈騎士の剣〉!マジかよ、おい!」
ウィズダム戦記。
主人公は中央大陸にある王都で学校に通い、そこで実力を身に着け、仲間たちとの絆を深める。
在学中は学校だけでなく、課外授業と称して各地を旅してクエストをこなし、最終的には覇王ヴァルゼムを倒す……。
簡単に言うとシミュレーションアドベンチャーゲームだが、システムの奥深さといったら一晩では語り尽くせないほどだ。
そして俺は、発売されてから20年間ずっと、ウィズダム戦記を続けてきた。
初めは攻略情報や魔法合成レシピ、武具生成方法などをノートに取り続け、いつしか個人の攻略サイトまで立ち上げた。
もっとも、攻略サイトはもうアクセスが途絶えて久しい。
人気作ではあったが、20年後の今となっては古典のゲームとなってしまった。
しばらくサイトを立ち上げた当初、15年以上前あの頃の懐かしさにふけりながら歩いていると、鬱蒼と茂る木々の群れが見えてきた。
あの森にも見覚えがある。これまたウィズダム戦記に出てくる〈帰らずの森〉ではないだろうか。
「もしかして、この辺って……〈レッドフォードの地〉か?」
もしあれが〈帰らずの森〉であればそのはずだ。
そう考えて周囲を見渡す。
下を通ると岩が降ってくるイベントがある岩壁。
モンスター、もしくはアイテムが出てくる謎に大きな草の茂み。
レッドフォード家まで続いている、独特のうねりがある道。
間違いなく、そうだ。
あの東大陸、高難度すぎてプレイヤーから悪名高い、通称「地獄の辺境」レッドフォードだ!
ということは、この黒い貴族の服と、終盤にも関わらず序盤の武器。この髪の色……。
俺は、もしかして〈エルトリッド・レッドフォード〉に転生したのか……?
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