第18話 D級ダンジョン

 



「はぁあああ!!」


「ギャアアアア!?」


 渾身の拳打をガーディアンのドテッ腹にぶち込むと、ガーディアンは悲鳴を上げて泥のように消滅していった。


「ふぅ……E級ダンジョンはもう余裕だな」


 最後にダンジョンコアを破壊し、危な気なくダンジョンを攻略した俺は自分の手応えを感じるように拳を握る。


 もう幾つE級ダンジョンを攻略しただろうか。モンスターを倒し、ダンジョンを攻略していく度に自分が強くなっていくのがわかった。


 車と同じくらい速く走ることができて、鉄をも砕く膂力を得た。まるで自分がスーパーマンになったと思うくらいにな。

 それは比喩でも自惚れでもなく、今の俺は超人レベルの肉体に成長していた。信じられないことだが、実際に起きていることだから疑う余地はない。


 これが器の進化べセルアップの影響なのだろう。

 ダンジョンのモンスターを倒すと、からだに宿せる魔力の総量が底上げされる。それだけでなく、人体のあらゆる能力も強化されるんだ。跳躍力とか、握力とかな。


 転移マントのお蔭で他のセイバーよりも沢山ダンジョンを攻略している俺は、その分べセルアップする回数も多いのだろう。

 しかし自分の力が強くなっていくと、E級ダンジョンでは歯応えがないというか、徐々に物足りなくなってきてしまう。


 本当はそんなこと思っちゃいけないんだけどな。

 セイバーである俺は、人々の平和を守ることが使命なんだから。


 遅く到着したダンジョン課の警察の人達に報告し、「えっもう攻略したの!?」とお馴染みのやり取りを行った――顔見知りではない地方の県だと一々説明している――後、俺はスマホを取り出し他にもダンジョンが出現していないかを確認した。


「えっ、D級ダンジョンが出ているのか。場所は……関東のショッピングモールだって!? 人が沢山いるじゃねぇかよ!」


 戦闘に集中していて気付かなかったが、ちょっと前にD級ダンジョンが出現していたらしい。しかも出現場所は、人が沢山いるショッピングモールのど真ん中。


 今まで俺が攻略してきたダンジョンは、山の中とか廃れた神社だとか、割かし人気の無い場所ばかりに出現していた。だから一般人が巻き込まれることも少なかったんだ。


 けど、ショッピングモールなんて人が沢山いるところに出現したらそうはいかないだろう。このままでは民間人に大きな被害で出てしまう恐れがある。


「早く助けに行かなくちゃ!」


 D級ダンジョンに行くのは初めてだが、そんな悠長な事言ってられねぇ。一人でも多くの人を助けるんだ。

 俺は急いでショッピングモールの画像を検索すると、すぐに転移マントの瞬間移動を使ったのだった。



 ◇◆◇



「何でドアが開かねぇんだよー!」


「出せー! ここから出してくれー!」


「お願い、誰か助けてー!」


「何でまだ人がこんなにいるんだよ……」


 瞬間移動で直接ショッピングモールの中に転移した俺は、目に入る光景に驚愕する。


 店内にはまだ沢山の民間人が残っていて、しかも慌てた様子で一階と二階の出入口付近に集中している。必死に逃げようとしているからか、おしくらまんじゅう状態になっていて苦しんでいる人も多く見られた。


 いったい何がどうなっているんだ?

 何故民間人がこんなに残っているんだ。避難できないのか?

 まだモンスターが現れている様子はないが、このままでは時間の問題だろう。早く避難しないと大きな被害が出てしまう。セイバーも到着していないようだし……。


 まずは状況を知らないとどうにもならないと、俺は近くにいた人に尋ねた。


「なぁ、何で避難できないんだ?」


「見てわからないのか! 自動ドアが全部開かないんだよ! 俺達は中に閉じ込められちまったんだ!」


「なんだって!?」


 キレられながら説明された話に驚く。

 自動ドアが開かないだって……どうしてそんな事になっているんだよ。まさかダンジョンが出現した影響で誤作動でも起きているのか?


 じゃあドアを壊せばいいじゃないかと聞くと、そんなことはとっくにやっていると言い返されてしまった。どうやら鈍器などを使って無理矢理破壊を試みたらしいが、自動ドアはビクともしなかったらしい。


 確かにそれだと、もう打つ手がなくなってしまう。

 このままではマズい。まずは逃げ道を確保しないと。そう判断した俺は、出入口に集まっている人達に大声で叫んだ。


「俺はセイバーだ! ドアを壊すからそこから退いてくれ!」


「セイバーだって!?」


「よかった、これで助かるぞ!」


 俺がセイバーだと知って安堵する人達は、言う通りに自動ドアから離れる。こういう時、セイバーの肩書があると助かるな。

 でも、これで壊せなかったらどうする……いや、今はそんなことを考えるな。破壊することだけに集中しろ。


 自動ドアの前に来た俺は腰を落として拳を弓引くと、全力で殴った。


「はぁぁああああああ!!」


 雄叫びを上げながら放った拳は、自動ドアを木端微塵に吹っ飛ばす。

 良かった……なんとか壊せたぞ。これで彼等も避難できるだろう。


 因みにダンジョンの中では物をどれだけ壊しても問題ない。

 何故かというと、ダンジョンの中は異界化しており、一見変わってないように見えるが別世界になっているからだ。だからダンジョンを消滅すると元の世界に戻り、壊れた物も全て元通りになる仕組みになっている。


 ただし人間や動物などの生き物がダンジョンの中で死んでしまったら、ダンジョンが消滅しようと元には戻らないんだそうだ。


「早く避難しろ! でも慌てるな!」


「ありがとう!」


「ありがとうセイバーさん!」


 自動ドアを破壊した光景を目にして喜んでいる民間人に催促すると、彼等は俺に感謝を伝えながら避難していく。

 これで退路は確保できたが、まだ一か所だけだ。まだ一階にも人が集まっている。急いで壊しに行かなねぇと。


 そう思って一階に降りようとした時、突然女性の悲鳴が聞こえてくる。


「きゃーーー!?」


「ゲヒヒッ」


「モンスター!? くそ、出てきちまったか!」


 今まで居なかったモンスターがついに現れてしまった。

 くそ、タイミング悪いな! もうちょい待っててくれてもいいじゃねぇか。


 そんな愚痴を言っていてもしょうがねぇ。

 まずは民間人に危害が及ぶ前にモンスターを排除しねぇと。俺は民間人に襲い掛かろうとするモンスターに向かおうとするも、その前に横から入ってきた何者かがモンスターに斬りかかる。


「仮面ソード!」


「ギャア!?」


「だ、誰だあれ……ヒーロー?」


 サーベル型の魔剣でモンスターを斬り裂いたのは、ヒーローショーに出てくるヒーローみたいなコスチュームを着ている人だった。いや、ヒーローっていうよりライダーか?


 突然現れた謎のヒーローの存在に民間人達が呆然としていると、ヒーローは彼等に向かってポーズを取りながら大声を出した。


「私は正義のC級セイバー『セイバー仮面』だ! 私が来たからにはもう安心だ! 皆の命は私が守る!」


「せ、セイバー仮面……?」


「ふざけた格好だけど、セイバーって言ったよな」


「セイバーが助けに来てくれたのか!」


「やった、これで私達助かるのね!」


 セイバー仮面と名乗る者の堂々とした振る舞いに、先ほどまで恐怖に染まっていた民間人の顔色が希望に変わり、落ち着きを取り戻した。


 おお……なんかわからないけど凄ぇな。

 変な格好ではあるけど、わかりやすいヒーローの姿から放たれる言葉には強い力があった。ああやって大丈夫だと本気で言ってくれる人がいると、結構安心するもんだよな。


 というか、俺以外にもセイバーが居て助かったぜ。

 俺は今いる二階から飛び降りてセイバー仮面の元に近付き、声をかける。


「俺もセイバーです。加勢します」


「おお、それは有難い! だが君は先に自動ドアを破壊して民間人を外に避難させてくれ! さっきやったようにな! その間は私がモンスターを引き受ける!」


「えっ、見てたんですか?」


「ああ、ヒーロースーツに着替えてトイレから出てきた時に丁度な。申し訳ないが私が持っている魔道具では力不足で破壊できなかった。だから君がやってくれ!」


「……わかりました! すぐに戻ってくるんで、それまで持ち堪えてください!」


「了解だ、少年!」


 セイバー仮面と俺は互いに役割を熟す。

 俺は自動ドアを破壊して退路の確保と民間人の避難。その間にセイバー仮面が一人でモンスターと戦う。


 正直一人でモンスターの相手をするのはキツいだろうが、今は彼に頑張ってもらうしかない。警察や他のセイバーも早く来てくれると助かるんだが、ないものねだりしても仕方ない。


 しっかりしろ、今は俺と彼の二人だけが民間人を救えるんだ。


 俺とセイバー仮面は頷き合うと行動に移ったのだった。

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