第10話 セイバー登録
「まさか一人で
「ありがとうございます。でもそんなに大したことなかったですよ」
「大したことありますよ! 魔道具も使わず自分の身体で戦った時は「なんて危ないことをさせているんですか冬樹さん!」って冷や冷やしましたけど、素手でバッタバッタと倒しちゃうんですから!」
「は、はぁ……」
興奮して褒めてくる結賀さんに、俺はたじたじになってしまう。
ガーディアンを倒して勝利の余韻に浸っていた後、冬木さんに呼ばれてダンジョンの外に出た。すると、戦いの様子を見守ってくれていた結賀さんにシュバッと詰められ、矢継ぎ早に褒められてしまった。
褒めてくれるのは嬉しいんだけど、マジで大したことなかったから困っちまうな。
それより、気になることは他にある。
「冬樹さん、俺はどうですか? 試験は合格ですか?」
横にいる冬木さんに問いかけると、彼は「はぁ……」とため息を吐きつつポリポリと頭を掻いて、
「合格だよ合格。あんなん見せられて合格させない訳にはいかないだろ~が」
「よっしゃあ!」
合格を言い渡された俺は、嬉しさに声を張り上げながらガッツポーズをする。
やった……これで俺もセイバーに成れるんだ。やる前から自信はあったけど、いざ改めて合格したらピンと張っていた緊張の糸が解けた。
よかったぁ……これで一つ目的に近付いたぜ。安堵していると、冬木さんがバシッと肩を叩いてくる。
「新田って言ったか、お前は俺が担当してきた中で一番見所があるぜ。強く誠実なセイバーになって、人々の不安を拭ってやってくれ。期待してるぜ、イケメンルーキー」
「はい、頑張ります。試験ありがとうございました、冬樹さん」
「おう」
頭を下げてお礼を伝える。
最初会った時はマッチョでイケメンがど~たらと言い掛かりをつけてきたりと取っつきにくそうな人だなって嫌な印象を抱いていたが、魔道具やモンスターの情報を丁寧に教えてくれたりと、意外と真面目で優しい人だったな。
それに、俺がモンスターと戦っている間、冬木さんはずっと気を張っていた。多分だけど、俺が危ない目にあったらすぐに助けてくれていたと思う。冬樹さんが試験官で良かった。
「それじゃあ新田さん、これから登録の手続きをするからついて来て」
「はい」
◇◆◇
「まずはセイバー試験の合格おめでとう。これからは私が新田さんの窓口担当に着くことになるわ、よろしくね」
「よろしくお願いします」
「はい、これが新田さんのセイバー証です。それが無いとセイバーだって認められないから、失くさないように大事に持っていてね」
「はい」
面接室に戻ってくると、結賀さんからカードを渡される。カードの左側には俺の顔写真――履歴書の写真からコピーしたんだろう――があり、右側にはQRコードと登録番号、それとC級セイバーって書かれていた。
これがセイバー証か。なんか免許証や社員証みたいな感じなんだな。
「これからセイバーについて、色々話すからしっかり聞いておいてね」
「はい」
真面目な顔をして話す結賀さんに、俺も姿勢を正した。
「試験に合格した新田さんは、本日からC級セイバーになりました。セイバーは救済者、その理念は名前の通りダンジョンを消滅させ人々を守ることです。
遺憾ながら今の時代のセイバーは金儲けとしての仕事に成り下がっているところも否めないけど、本質は人々を守る大事な職業です。それを必ず忘れないで、心に刻んでください」
「はい」
そうなんだよな……。大災害の後にギルドやセイバーが出始めた頃は自衛隊や消防隊のように立派な職業といったイメージを抱いていたが、時代が変わるにつれギルドもセイバーの数も増えていき、一攫千金を目的としたがめつい職業という悪い印象を一般人に与えてしまっていた。
何故そんな事が起こっているかというと、人助けよりもダンジョンの利益を優先したり、一般人に横柄な態度を取るセイバーも出てきてしまっているからだ。
なので、大災害後と比べて現在はギルドやセイバー全体の印象が悪いように思われてしまっている。
勿論、そっちは少数で大体のセイバーは真面目にダンジョンを攻略して人々を平和を守っている。しかし、良いことに比べて悪いことはニュースに報道されやすいし、SNSでもすぐに拡散されてしまう。
結賀さんが言っているのは、そうならないように気を付けろってことだろう。
「まぁ、新田さんなら大丈夫だと私は思っていますよ」
「えっ、はぁ……ありがとうございます?」
にっこり笑顔を浮かべながら告げる結賀さん。
そう言ってくれるのは嬉しいけど、何でこんな信頼されているんだ? いや、俺だけじゃなくて多分誰にでも言っているんだろうな。営業トークというやつだろう。
「話を続けるわね。新田さんは晴れてギルド協会のセイバーになりましたが、扱い的には派遣社員と同じです。ノルマを達成出来なかったらクビになっちゃうから、気をつけてね」
「クビですか……ノルマなんてあるんですね」
「そうなのよねぇ、ノルマなんて作るからセイバーが民間人を守るよりダンジョンに利益を優先してしまう事態が起きているのよ。
人々から金にがめついって言われてもおかしくないわよ。まぁギルド協会も結局は政府の組織だから、お金を搾取しようといった考えがあるんでしょうけど」
ため息を吐きながら愚痴を言う結賀さん。ギルド協会の方針に不満がありそうだな、彼女も大変そうだ。
「ノルマってどれくらいなんですか?」
「C級セイバーの場合は半年の間に“小魔石”を五個納品してくれれば良いわ。それぐらいならセイバーの負担にならないみたい。勿論、納品した魔石の報酬は出るわよ」
「魔石の取引価格ってどんくらいなんですか」
「“小魔石”が一つにつき数千円から数万円。“中魔石”が数万円から数十万。“大魔石”が数十万円から数百万円。品質にもよるけど、魔石の相場はこんな大体感じかしら」
「魔石一つでそんな大金貰えるですか……」
「まぁね……でもそれは正当な報酬よ。凶悪なモンスターと戦うセイバーは、常に死の危険が付き纏う仕事だもの。本当に、簡単に命が失ってしまうの。けど、彼等が居なかったら人々はダンジョンの恐怖に脅かされてしまう。
新田さんが言ったように大金だと思うけど、命と比べたら安いものだわ」
「そうですね……それはよく分かります」
セイバーが居なかったら、日本はとっくに終わっていただろう。彼等が日々ダンジョンを攻略して消滅してくれているからこそ、人々の平和は守られているんだ。
因みに魔石は小中大と大きさが分けられているが、モンスターによって落ちるサイズが違うらしい。
ゴブリン級は小魔石。オーガ級は中魔石。ドラゴン級は大魔石って感じでな。より大金を求めるなら、強いモンスターと戦わなくちゃいけないってことだ。
「次は新田さんがダンジョンに攻略する時の説明をするわね。もし新田さんの近くに
「申請ですか?」
「そうよ。スマホは持ってる?」
結賀さんに聞かれた俺は、鞄に仕舞っていたスマホを取り出す。セイバー証に記載されているQRコードを読み込んでと言われたので指示通りやると、ギルド協会のHPが開かれる。さらに登録番号を打つと、新田義侠というページになった。
へぇ、俺のページになっているのか。
「これが新田さんのマイページだから、すぐに開けるようにブックマークかお気に入り登録しておいてね。それでもし新田さんがダンジョンに入ろうとしたら、現在現れているダンジョンに向かうという事を送信して欲しいの。
そうすれば、新田さんがダンジョンに入ることが私か、私が休みの時は他のスタッフが分かるようになっているから」
「わかりました。こんな感じっすか?」
「そうそう、簡単でしょ?」
結賀さんに操作のやり方を教わる。そんなに難しくはないのですぐに覚えられた。
「これをすればギルド協会は誰がダンジョンに入っているのか把握できるから、忘れずにやってね。逆にやらないで勝手に入ると評価が下がってしまうわよ」
「了解です」
「それとダンジョンを攻略して消滅させた後、警察のダンジョン課にダンジョンで起こったことを報告して欲しいの。すると警察からもギルド協会に報告がくるから」
「警察ですか……」
「ええ、ダンジョンからモンスターを出さないように結界を張るから、警察は必ずいるわ。そんなに時間は取らないから協力してね。今結構多いのよ、警察に報告するのを嫌がったり態度が悪いギルドやセイバーって。
すると警察からセイバーが協力的でないってクレームがきたりするのよね、困ったことに。警察にも横柄な態度を取る人がいるから、セイバーだけが悪いだけじゃないけど。私も切符を切られた時にムカついたから気持ちは分かるわ。ちょっと法定速度を越えただけなのに……」
はぁ、と深くため息を吐く結賀さん。
セイバーと警察って仲が悪いんだろうか? どっちも人々を守る大切な仕事なのに、なんだかやるせないな。
「あっ、ごめんなさいね。ダンジョンに関して必ずやって欲しいことはこのくらいかしら。新田さんは何か聞きたことある?」
「どうやったら自分でギルドを作れますか?」
「ギルドを作る……ああ、さっきダンジョンランキングで一位を目指しているって言ってたわね」
「はい」
それが一番重要だ。
俺はまだセイバーになっただけ。スタートに位置に着いただけで、スタート自体は切っていない。早く自分のギルドを作ってランキングを上げる。それが最大の目的なんだ。
「ふふ、セイバーになったばかりなのに気が早いわね。ギルドの申請をする為には、まず新田さんがB級セイバーに昇格しなくてはいけないのよ。B級セイバーになってからも評価を上げて、それでやっとギルドマスターになれるわ」
なんだよ、C級セイバーじゃギルドを作れないのか……。そりゃ簡単にはいかないか。
「じゃあ、どうやったらB級セイバーになれますか?」
「評価を上げればいいのよ。評価はダンジョンを消滅させた功績や、ギルドに魔石を納品すると上げられるわ。B級の評価に達成した時、さっき試験を行ったようにB級ダンジョンの試験を行って、合格すれば晴れてB級セイバーに昇格よ」
「B級セイバーの試験を行うまでの評価って、大体どれくらいかかりますか」
「う~ん、普通にやっていけば四、五年。早くて三年ぐらいかしら」
「早くて三年!?」
嘘だろ!? なんでそんなにかかるんだよ!?
三年って……そんなに待ってられっかよ! 俺は食い気味に結賀さんに尋ねた。
「ど、どうしてそんなにかかるんですか!?」
「どうしてって言われてもねぇ……ダンジョンって攻略すれば消滅するわよね? 出現する数は多いけど全国各地に出るから実際に行ける範囲の数には限りがあるし、ライバルって言うとアレだけど他にもギルドやセイバーもいるから、中々個人の評価って上がらないのよね」
「そんな……」
そうか……。
ゲームとかならダンジョンは消滅しないし何度でもトライできる。だけど現実はダンジョンが消滅しちまうから、数は無限ではなく有限。
しかも俺以外にも沢山のギルドやセイバーといったライバルがいるから独り占めできる訳でもない。というか奪い合いになるかもしれねぇ。
ダンジョンを消滅させずに残しておくってズルい考えもあるだろうが、それはやっても無駄だろう。どうせ他のセイバーに消滅させられて終わりだ。それに、人々をダンジョンの脅威から守るといった使命にも反する。
クソ……じゃあどうすればいいんだよ!
(いや……待てよ?)
評価を上げるのに時間がかかってしまうことに焦燥感を抱いたら、ふと着ているコートに目が止まる。
(馬鹿だ俺! 俺には
俺が着ている転移マントは、瞬間移動できる魔道具だ。
転移マントの訓練した俺は、全国のどこへだって一瞬で移動することができる。となれば、どこにダンジョンが出現したって俺ならすぐに行けるんだ。
ははっ! いける、これならいけるぞ!
転移マントのお蔭で希望が見えた俺は、結賀さんにあることをお願いする。
「結賀さん、ダンジョン警報なんですけど、俺には全国の範囲に設定してくれませんか」
「全国範囲に? 新田さんって確か東京に住んでるわよね。全国の範囲にしても行けないし意味がないんじゃないかしら? それに調べようと思えば、後からでもギルド協会のHPで現在出現しているダンジョンの情報を調べられるわよ」
「それじゃ遅いんです! すぐに気付いて行けるようにしたいんですよ!」
「そ、そうなの? 分かったわ、やってあげる」
「ありがとうございます!」
よし、これで全国に出現したダンジョンにすぐに気付けるになったぞ。
転移マントさえあれば、すぐにでもB級に昇格できるぜ。
「他に聞きたいことはある?」
「今のところは大丈夫です」
ダンジョンランキングはどうやったら上がるかのかも気になるが、それはB級セイバーになってからでも聞けばいいだろう。
「もし何か聞きたいことがあったら私に聞いてね。じゃあこれから、ダンジョンについて二時間程度講習をやるわよ。寝ないでちゃんと聞いてね」
「講習!? そんなのやらなくちゃいけないんですか!?」
「当たり前じゃない。ギルドだって入社したセイバーに必ず行っているわ。ダンジョンでは気を付けないといけないことが山ほどあるの。ダンジョンが消滅すると、壊れたものとか全部元通りになるとか、新田さんは知らないわよね?」
「はい、まぁ……」
「他にも魔道具の使用方法とか他のギルドやセイバーと協力して攻略する時の流れとか、ダンジョン関連で注意することが沢山あるから、講習で知識を持つのは大事なことなの。なによりも、新田さんが死なない為にね」
「わかりました。ちゃんと聞きます」
「うん、よろしい」
なんだ、この後すぐにでもE級のダンジョンにでも行こうかと思ったが、出鼻を挫かれちまったな。
まぁいい、セイバーになったんだからダンジョンにはいつでも行ける。
(待ってろよ、帝我園)
すぐにB級セイバーになって自分のギルドを作る。そしてお前に下剋上してやるからな。
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