第8話 魔道具
「地下ですか?」
「そうよ」
面接を終えた後、結賀さんについて来てと言われてエレベーターに乗り込むと、彼女は地下三階のボタンを押した。
ギルド協会の地下でセイバーの実施試験を行うってことだろうか? 不思議に思っていると、彼女が説明してくれる。
「ギルド協会の地下でダンジョンを管理しているのよ。新田さんには実際にダンジョンに入ってセイバーの実施試験を行ってもらうわ」
「えっ!? ダンジョン!?」
話を聞いて驚愕した。まさかギルド協会の地下にそんなものがあるなんてな。
危なくないのだろうか? まぁ管理してるってことは大丈夫ってことなんだろうけど。
衝撃の事実に唖然としていると、到着したのかチンと機械音が鳴ってエレベーターのドアが開く。
「ここがダンジョン……?」
目に映る光景に首を傾げた。
そこには何もなく、だだっ広い空間が広がっているだけ。体育館ぐらいの広さで、周りが全て鉄筋コンクリートの造りになっている。
ここがダンジョンなのか? なんにも無ぇし、全然そんな風には見えないけどな。
困惑していると、近くから野太い男の声が聞こえてくる。声の方に顔を向けると、そこには身体がデカく、筋肉盛り盛りのハゲのおっさんがいた。
「やっと来たか、待ちくたびれちまったぜ」
「
「そりゃ結賀ちゃんが来るってんだから張り切るってもんよ。いや~結賀ちゃんは今日もお美しい。どうだ、この後一緒にランチにでも行かないか?」
「も~冬樹さんったら冗談はやめてくださいよ」
「がっはっは、こりゃ失敬……(本気なんだけどなぁ……)」
結賀さんと親し気に会話するおっさん。
俺よりも背が高いし、ボディービルダーかってぐらい身体付きが良い。頭はハゲで顔が濃く、日焼けサロンにでも通っているのかってぐらい肌が真っ黒に焦げている。
(このおっさん、相当強ぇな)
おっさんからは強者の雰囲気を感じ取った。相対しているだけで、おっさんから放たれるプレッシャーにビリビリと肌が粟立つ。あの筋肉は決して見せかけではないだろう。
じっと観察していると、おっさんは俺の方に身体を向けてにっと勝気に笑いながら口を開いた。
「そんで結賀ちゃん、このガキんちょが試験者なのかい?」
「そうですよ、新田義侠さんです。新田さん、こちらの方はギルド協会セイバー課 試験担当の冬樹
「おいおい結賀ちゃん、こう見えてってのは余計だろぉ」
A級セイバー……このおっさんが?
確かA級って、階級が一番高いセイバーのことだよな。そういや
「よぉガキんちょ、俺がお前の試験を担当する冬樹だ」
「新田です。よろしくお願いします」
「お前かなり若いな、今いくつだ?」
「十七っす」
「十七!? まだ高校生のガキじゃね~かよ! なんだってそんな若ぇのにセイバーなんかなろうとしてんだ」
またこれか……と内心でため息を吐く。
さっきと同じやり取りをしなくちゃいけないのかと面倒に思っていると、おっさんはぽりぽりと頭を掻きながら、
「まぁ何だっていいや、理由なんか人それぞれだしな。おいガキんちょ、お前がガキだからって優しくしね~からな。それに俺はイケメンが嫌いなんだ、厳しく判断させてもらうぜ」
「ちょっと冬樹さん、仕事に私情を持ち込まないでください」
「なんだっていいっすよ。俺は絶対セイバーになるんで」
「ほ~、言うじゃねぇか。それなりの覚悟はあるってことだな。そんじゃまぁ、話もこれぐらいにしてボチボチ始めますか。おいガキんちょ、こっち来い」
ちょいちょいと手招きされて、おっさんの後についていく。
「これは……」
テレビドラマとかに出てくる物騒な物を初めて目の当たりにして息を呑む。
これって全部本物か……? 怪しく黒光りするソレに唖然としていると、おっさんが一丁の銃を手に取って説明してくる。
「これはモンスターを倒すための魔道具だ。この銃が『魔銃』で、そっちのが『魔剣』。セイバーがモンスターと戦う時は基本的に魔道具を使うんだ。何でだか分かるか?」
「わからないっす」
「だろうな。いいか、ダンジョンのモンスターには普通の武器や兵器は殆ど効果が無いんだ。まぁロケットランチャーとか爆弾くらい威力ある武器なら通じるけどな。
だけど一般人がそんなもん用意できる訳ねぇし、魔力を通した魔道具の方が簡単にモンスターを倒せるんだよ」
「へぇ……」
そうだったのか、初めて知ったわ。
セイバーがどんな風にモンスターと戦っているかなんて今まで知らなかったし、見たこともなかったしな。
そうか……ダンジョンのモンスターには普通の武器で攻撃しても無駄なのか。俺の考えでは、店で買ったナイフとかでも十分イケるかと思ってたけどな。そんなに甘くないってことか。
「武器じゃなくて、自分の身体で攻撃するのはどうなんですか? パンチやキックとか」
「はっはっは! 顔に似合わず血の気が多い方なのか。別に効かない訳じゃないが、魔道具の方が全然有効だぞ。まっ、俺ぐらいになると魔道具よりこの磨き上げた肉体から繰り出される打撃の方が圧倒的に強いけどな」
「へぇ……」
打撃が効かない訳じゃないのか。それを聞いて安心したぜ。できるなら、魔道具を使うより自分の身体で戦いたいと思っていたんだ。
「まっ、とりあえず最初は魔銃を使ってみろ。初心者は基本的に魔銃から訓練するんだ。ほら、持ってみろよ」
「うっす」
陳列されている魔道具の中から一丁の魔銃を取って渡してくる。受け取った俺は、マジマジと魔銃を観察した。
「ふ~ん、結構ゴツいんだな」
魔銃の見た目は普通の拳銃と違い銃身のサイズが大きめで、SF映画に出てくるガジェットみたいな感じだった。なんかこう、男心がくすぐられるカッコよさがあるな。
それと持ってみた感じ、ゴツい見た目にしては意外と軽い。
色々触っていると、おっさんが横からレクチャーしてくる。
「使い方を教えてやるよ。といっても普通の銃と構造は然程変わらんがな。ここがセイフティで、ここがトリガーな。セイフティを下げた後にトリガーを引けば魔力の弾が射出されるんだ。簡単だろ?」
「そうっすね」
「試しにあっちに向かって撃ってみろよ」
おっさんに促された俺は、魔銃を掲げ何もない所に向けてトリガーを引いた。ジュウンッという重低音が響いた刹那、銃口から野球ボールくらいのサイズの光球が発射される。凄まじい速度で飛ぶ光弾は、バチンッと何かに当たったような音を立てて消滅した。
おお……凄ぇな。これが魔銃か。
「なっ? 簡単だろ?」
「そうっすね。普通の拳銃みたいに反動も無いし、オモチャみたいで使い易いです」
「そうだろう、これなら素人にもすぐに使えるしな。一般的な銃と違うのは、鉄の銃弾じゃなくて魔石に宿っているエネルギー――魔力を銃弾変わりにしているんだ」
「魔力っすか?」
「ああ。トリガーの横にあるリリースボタンを押してみろ」
トリガーの横って……これか?
おっさんに言われた通りトリガーの横にある小さなボタンを押すと、グリップの下から長方形の板がしゅっと出てきた。持ってみた感じ板というか、石って感じだな。それに淡く光っている。
「それは魔石を魔銃用に加工したものだ。普通の拳銃はマガジンに銃弾が入っているが、魔銃の場合はマガジン自体が魔石になっている」
「なるほど……」
「さらに言うと、魔銃に使われている素材は全部ダンジョンで採れる魔鉱石なんだぜ。魔石に宿る魔力を伝導させる為には、魔鉱石でなきゃ駄目なんだ」
魔鉱石って確か車や飛行機、精密機械にも使われている万能な鉱石だったよな。丈夫で軽く、鉄や他の素材よりも優れているっていう。そっか、魔鉱石を使っているから軽かったのか。一つ疑問が解けたわ。
「でも凄いですね。よくこんな武器一から造りましたね」
「はっはっは! そうだろうそうだろう! この魔銃や魔剣もそうだが、魔石に宿る魔力を利用した魔道具の基礎は全て
魔道具が普及したお蔭で、なんの力もない俺達一般人でもダンジョンのモンスターと戦えるようになったんだ。まさに人類にとっての救済者よ」
「へぇ……」
興奮しながら話すおっさんに、俺も感嘆の息を漏らす。
マジで凄ぇな、柊って人。誰もが使える魔道具を開発しちまうだもんな。魔道具のお蔭でセイバーの数も増えたっていうし、ノーベル賞もんじゃねぇのか?
「ここにある魔道具もそうだが、大体の魔道具は“ヒイラギ式”と名付けられている物なんだ。まぁ今じゃ工業企業やギルドがそれぞれ独自に開発していて、新しい型の魔道具が生産されているけどな。今一番力を入れているのは帝国ギルドだったか? お前もその名前ぐらいは知ってるだろ?」
「ああ……はい」
知ってるよ、憎いほどな。
「とは言っても、やっぱり最初に作った柊さんが凄ぇけどな。だが残念なことに、本人は小さな町工場でひっそりと隠居してるって聞くぜ。噂に聞くと超頑固な爺さんらしい」
「職人気質ってやつっすか」
「そういう事だ。おっと、長話が過ぎだな。そんじゃ魔銃も試し打ちしたことだし、実際にダンジョンに入ってモンスターと戦ってみっか」
「……っ!」
いよいよダンジョンの中に入るのか。
こんな所で躓いてられねぇ。試験に合格してセイバーになってやる。
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