第2話 大災害
ダンジョンとは、土地や建物などが突発的に未知の領域に変異することを云う。
ダンジョンの中には異形の化物――通称モンスターが存在して、放っておくとモンスターはダンジョンの外に出てしまい人々に襲い掛かるんだ。
その存在を人々が知ったのは、1999年7月。
神社、海、公園、山など、ありとあらゆる場所に突如ダンジョンが現れた。それは日本だけではなく世界中に出現し、
「ノストラダムスの大予言って知ってるか?」
「何それ?」
「知りませ~ん」
首を傾げる生徒達に、先生はぽりぽりと頭を掻きながらため息を吐いた。
「そっか~。お前等の世代だと知らないんだなぁ。ジェネレーションギャップだわぁ。しょうがねぇ、先生が軽く教えてやるよ」
パンっと手を叩いて、先生は得意げに語り出した。
「フランスのノストラダムスっていう占い師がな、1999年7月に恐怖の大王によって人類は滅亡するっていう予言をしたんだ。それがノストラダムスの大予言ってやつよ。そんな馬鹿げたこと起こりっこないって誰も信じちゃいなかったが、ちょっとしたブームにもなったんだぜ。
だけど予言は当たった。まぁ実際に現れたのは恐怖の大王じゃなくて、ダンジョンだったんだがな」
世界中に出現したダンジョンに人類は震撼した。
人々はもう大パニック。皆がみんな、恐怖に脅えて逃げ惑った。
そりゃそうだろう。いつも使っている場所が突然見たことがない異界に変わり、中から化物が出てきて襲い掛かってくるんだからな。パニックになるなってのが無理な話だ。
テレビに映るニュースはダンジョン関連ばかり。ダンジョンによって人類は本当に滅亡してしまうのではないかと危惧される。しかし、そんな事にはならなかった。
何故なら、突如現れた
「もう人類は滅亡するしかないって絶望しかけていたところに颯爽と現れた
セイバーの尽力により、大災害は早々と終息を迎えた。
世界が落ち着きを取り戻すと、人々は疑問を抱く。人類の危機を救ってくれたセイバーとは、一体何者なんだろうと。
「大災害が収まった後、世界政府はある組織の存在を発表したんだ。組織の名前はお前等も知っている『ELF《エルフ》』。そんで『ELF』の代表は、世界にこう発表した」
“我々は、遥か昔からダンジョンの脅威を退いてきた影の組織である”。
驚天動地とは正にこの事だろう。
世界中に出現したダンジョンは、1999年7月に初めて起きたものではなく、遥か昔から起きていたことだったんだ。
そして『ELF』という秘密組織はダンジョンの脅威を退き、人知れず世界の平和を守っていたそうだ。
「でもおかしいよな。ダンジョンなんてものが、どうして今まで世の中に知られずにいたのか。あんなものが現れたら普通バレるのによ」
「じゃあ何でその時まで知られていなかったんですか?」
「そりゃまぁ。『ELF』が敢えて隠していたからだな」
『ELF』はダンジョンの存在を秘匿していた。
その理由は一つ。世界に要らぬ恐怖を与えたくなかったから。まぁ確かに、あんなものがあるって知ったら世界中はパニックになるだろう。実際になったしな。
「世界の平和を守る為に『ELF』は人知れず自分達だけで戦っていた。けど、『ELF』だけで戦うのには限界があった。彼等の話では、ダンジョンが出現する頻度が急激に増えちまったらしい。そこで『ELF』は共に戦ってくれる仲間を集めることにした。それがセイバーと呼ばれる人達って訳だ」
「「へぇ~」」
『ELF』によると、ダンジョンは年に一回出現するかしないかだそうだ。その為、今までは組織の者だけで秘密離に対処できた。
だが1990年頃になって、突然ダンジョンが出現する頻度が激増してしまう。組織の者だけでは手が足りなくなった『ELF』は、共に戦ってくれる仲間を集めようと極秘に民間人をスカウトする。
民間人は『ELF』から戦い方を教わり、共にダンジョンの脅威に立ち向かっていく。そんな民間人を、『ELF』は救済者――セイバーと呼ぶことにしたんだ。
「大災害が終わった後もセイバーは活躍しているんだ。今でも毎日ダンジョンが出現しているからな。それで――」
――ウーウーウー!!
「おっと、ダンジョン警報か」
先生が話していると、突如けたたましい音が教室に鳴り響く。
地震の時に鳴る緊急警報みたいな音だ。全員がスマホを取り出し、内容を確認する。
「ダンジョンが発生したのか。なになに……推定ランクはE級でこの学校よりもずっと遠いな。まぁ大丈夫だろう」
「よかった……」
「なんだぁ、学校の近くにダンジョンが出たら休校になるのによ~」
内容を確認した先生が安心させるように言うと、生徒達はほっと息をついたり悔しがったりと様々な反応をした。
今の緊急警報は、これからダンジョンが出現しますよといった意味の警報音だ。
『ELF』はダンジョンが出現する予兆と場所を事前に察知することができるらしい。察知したらすぐに、出現する予定地の各都道府県の人達のみに緊急警報を鳴らすんだ。東京に出現するのであれば、東京に住んでいる人達のみに報せるって感じだ。
「ちょうどいいし、ダンジョンが出現する時の対応を話すとするか。今みたいに緊急警報が鳴ると、まず始めにダンジョンが出現する場所に警察が出動するんだ。それで、モンスターがダンジョンから出て来ないように結界を張ることになってる」
ダンジョンの存在が世界に公表された後、各機関は『ELF』と協力体制を取った。
日本政府は新しくダンジョン省を創設したし、警察はダンジョンを専門とした対策課――ダンジョン課を設立した。
ダンジョン課の役割は主に、ダンジョンが出現する場所にいる民間人の救助と避難、そして結界を張ることだ。
『ELF』はダンジョンからモンスターを出さないようにする『結界』という装置を持っていて、その技術によって人々の安全は守られている。
ダンジョン課もモンスターと戦うことはあるが、殆ど参加しない。何故なら、戦う組織は他にいるからだ。
それが――“ギルド”だ。
「結界を張った後はギルドの出番だ。ギルドに所属しているセイバーがダンジョンに入ってモンスターと戦い、消滅してくれるって訳よ」
ギルドとは、政府公認の民間軍事会社だ。
大災害の後、政府は現存するセイバーを中心にダンジョン専門の組織を設立した。当時のセイバーだけではとても手が足りない為、一般人を募ってセイバー全体の数を増やそうとしたんだ。
「今ではもうギルドの数は日本だけでも五百近くあってな、セイバーは何十万人もいるんだ。中でもやっぱり一番凄ぇギルドは、日本で最初に設立した“帝国ギルド”だな」
「それくらいは知ってるよ先生~」
「だって“ダンジョンランキング”で一位だもんな」
「あっ、そうだった? こりゃ失礼」
先生が言ったように、帝国ギルドは日本で作られた最初の
大災害を救ったセイバー達を筆頭に、多くのセイバーが所属している。帝国ギルドはこの十七年間の間に実績を積み上げ、今ではホールディングス化して幾つもの子会社を持ち、業界トップの大企業となっている。
では何故、モンスターを倒してダンジョンを消滅するだけの民間軍事会社が大企業にまでなったのか。
その理由とは、ダンジョンから得られる資源が関係している。
ダンジョンにいるモンスターを倒すと、“魔石”という石が手に入る。研究の結果、魔石には莫大な電気エネルギーが秘められていることが解明された。魔石の存在によって、世界の電力不足は改善されたんだ。
資源は魔石だけじゃない。ダンジョンには“魔鉱石”と呼ばれる万能な鉱石が採れるんだ。現在では車や飛行機などの乗り物や、精密機械にも魔鉱石が使われている。
魔石と魔鉱石の存在は、世界に産業革命をもたらした。どの企業も慌ててダンジョン資源の産業に取り掛かり、今も日々発展していっている。
その先駆けとなったのが、日本では帝国ギルドだったんだ。
「あ~あ、俺も帝国ギルドに就職して~けど……」
「私はセイバーになりたくないし、あいつと関わるのもなぁ」
ん? なんだ、大企業だってのにあまりクラスメイトの評判が良くないな。普通だったら入りたいもんなんじゃないのか?
「ま……まぁ大企業に就くのはいい事だぞ。おっと、そろそろ時間か。それじゃあダンジョンについての特別授業は終わりとする」
先生が言った後、すぐに授業終了のチャイムが鳴る。
今のが最後の授業だったため、生徒達はぞろぞろと教室を出て行った。
「帝国ギルドか……」
「なんだ、義侠は帝国ギルドに入りたいのか?」
考えていたことが口に出ると、隣にいる咲桜が怪訝そうな表情を浮かべて尋ねてくる。
俺は「まぁな……」と返事をして、
「給料も良さそうだしな」
「義侠の頭では無理だと思うがな。も、もしよかったら……私が勉強を教えてあげてもいいぞ」
「あ~遠慮しておくわ」
「はぁ……そうか。そういえば今日は予定空いてるか? よければ義侠に付き合って欲しいんんだが」
「悪い、今日もバイトだ」
「バイトバイトって、何でそんなにバイトしているんだ」
「別にいいだろ。俺ももう帰るぜ」
「あ、待ってくれ。私も行く」
席から立ち上がると、咲桜もついてくる。
(帝国ギルド……か)
そんな大企業に入れたら、今よりももっと稼げるだろうか。
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