第8話
【週に一回は一緒にご飯食べたい】
月代の提案をあっさり飲んだ陽太は、月代の誕生日の翌週にはアパートから引っ越していた。
月代に話す前に既に引っ越しの手筈を整えていたのだろう。
それほど広くはないアパートだったが、陽太が出て行ったアパートは月代にとっては広すぎるように感じた。
約束どおり、陽太は週に一回は必ず予定を合わせて、月代と一緒に食事に出かけた。
食事というよりは、飲みに出かけた、という方が正しいだろうか。
場所は決まって、あの大衆居酒屋。
2人でいつものカウンターで生絞りレモンサワーを飲むのが、お決まりのパターンとなっていた。
そして、大抵その日は、雨。
「陽ちゃんって、雨男?」
「えっ?俺?!月ちゃんじゃないのっ?!」
「私は、結構晴れ女だよ?」
雨が降る日は決まって、2人で長居をした。
そんな時月代はやはり、このままずっと雨が止まなければいいのに、と思っていた。
陽太が月代と別れて暮らし始めてから2年後。
週に一回の大衆居酒屋での待ち合わせに、陽太は1人の女性を連れて来た。
「紹介するよ。俺の彼女。結婚を前提に付き合ってる」
とても可愛らしくて感じの良い女性で、陽太ととてもお似合いだと月代は思った。
この日はいつものカウンターの席ではなく、4人掛けのテーブル席。
陽太の隣に座っているのは、月代ではなく陽太の彼女。
作り笑顔を顔に貼り付けながらも、月代の胸の中には自分でも認めたくない汚い感情が渦巻いていた。
そこは、陽ちゃんの隣は、私の場所なの。
私から陽ちゃんを、奪わないでっ・・・・!
湧き上がる感情を抑えるように、月代は生絞りレモンサワーを何杯も飲み、そして潰れた。
翌日が休みだという、気の緩みもあったのかもしれない。
「仕方ないヤツだなぁ、本当に」
大衆居酒屋を出ると、陽太は月代を心配する彼女を先に帰し、月代の体を支えながら家路に着いた。
向かっているのはもちろん、月代のアパート。
「陽ちゃん・・・・」
ろれつの怪しい口調で、月代は陽太にせがんだ。
「今日、陽ちゃんのところにお泊りしたい」
「はっ?!何言ってんの、月ちゃん。ダメ」
「今日だけっ!お願いっ!そしたらもう・・・・」
諦めるから。
声には出さずに俯く月代の耳に、暫くしてから聞こえたのは陽太の溜息。
「仕方ないなぁもう・・・・今日だけ、だぞ?」
「うんっ!」
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