第7話
月代の20歳の誕生日。
月代は陽太に連れられて、最寄駅から住宅街の中間辺りにある大衆居酒屋へとやってきた。
その大衆居酒屋は古くからこの場所にあり、安くて旨いと地元の人間からは好評で、陽太も常連らしい。
もっとも、陽太が訪れるのは夜ではなく、昼間のランチの時間帯がほとんど。
夜は必ずまっすぐ月代の待つアパートへと帰り、夕食を共にしていた。
「月ちゃんも20歳になったことだし、そろそろ別に暮らした方がいいと思うんだ」
生絞りレモンサワーの半分に切られたレモンの果汁を絞りながら、陽太が言った。
「えっ?」
「ずっと兄貴と一緒に住んでたんじゃ、彼氏もできないでしょ。せっかく月ちゃんは可愛いのに」
はい、と絞った果汁を流し込んだグラスを月代に差し出しながら、陽太は言う。
「彼氏なんて・・・・」
「ま、俺もそろそろ、結婚適齢期だしね」
月代の5歳上の陽太は、25歳だ。確かに結婚してもおかしくない歳ではある。
その事実に、月代は頭からサーッと血が引くような感覚を覚えた。
「今のアパートには月ちゃんがそのまま住んでていいからね。俺は近くに別のアパート借りるから。大丈夫だよ、月ちゃんのことは俺がちゃんと守るから」
そう言ってから、陽太はニヤリと笑う。
「もちろん、月ちゃんに彼氏ができるまで、だけど」
曖昧に笑って、月代は陽太おススメだという生絞りレモンサワーを一口口に含んだ。
月代にとって初めてのそのお酒は、爽やかな酸味とともに、なかなか消えない苦みを月代の中に残した。
「あー、雨降ってきちゃったな」
窓の外を見ながら、陽太が呟く。
「傘持ってきてないし。止むまでここで飲んでるか」
「うん」
ガヤガヤと騒がしい大衆居酒屋のカウンター席で、陽太と肩を並べて月代は生絞りレモンサワーを飲んだ。
やがて、何杯目かの生絞りレモンサワーを飲みながら眠気を覚えた月代は、コトリと陽太の肩に頭を乗せた。
「陽ちゃん、眠い・・・・」
「ちょっ、おい、マジか・・・・」
仕方ないなぁ、と苦笑を浮かべながらも、陽太は脱いで椅子の背に掛けてあったジャケットを月代の肩口へと掛ける。
「雨、止まないな」
このままずっと雨がやまなければいいのに。
陽太の温もりを間近で感じながら、月代はそんな事を思っていた。
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