第6話

「陽ちゃん・・・・」


 隣に並んだ布団の上では、陽太がいびきをかいて眠っている。


「ちょっと、うるさいよ?」


 手を伸ばして鼻をつまむと、んごっ、という声と共にいびきがおさまり、イヤイヤをするように顔を振る陽太に小さく笑いながら、月代は鼻をつまんでいた指を離した。

 陽太との二人暮らしは、月代にとっては楽しいものではあったが、新たな苦しみも生み出す事となった。

 陽太は変わらずにずっと、月代を可愛がり、大切にしてくれる。

 妹として。

 それが、月代には次第に苦しくなってきたのだ。


 月代はとっくに気づいていた。

 自分の陽太への気持ちが、兄への愛情とは異なるものであるということに。


「ねぇ、陽ちゃんは、さ。いつか誰かと結婚とか、するんだよね?」


 月代の問いに、眠っている陽太が答える事はない。


「それまでは、さ。私・・・・陽ちゃんのこと、好きでいても、いいかな」


 静かに体を起こすと、月代は陽太のすぐ隣に膝をつき、おそるおそる陽太の頬へと手を伸ばす。


「好きだよ、陽ちゃん。大好き」


 そして。

 体をかがめ、小さく開いたままの陽太の口に、唇を重ねた。

 月代にとって初めての口づけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る