第5話

「月ちゃん。高校を卒業したら、俺と一緒にこの家を出よう」


 突然陽太がそんな事を言いだしたのは、月代が高校3年の秋だった。


「月ちゃんの就職先の近くに、アパートを借りるから」


 その頃になると、陽太が怪我をする頻度が増えてきている気がして、月代もさすがにおかしいと思い始めていた。


「陽ちゃん、その怪我もしかして・・・・」


 脳裏に浮かんだのは、自分を置いて出て行った実の母親の、大きく腫れあがった顔。

 その言葉を遮るように、陽太は月代を強く抱きしめて言った。


「大丈夫だよ、月ちゃん。月ちゃんのことは絶対に、俺が守るから」


 陽太の言葉で、月代は全てを悟った。

 月代の父親はまた、お酒に手を出していたのだ。

 そして、酔う度に陽太に暴力を振るっていたのだろう。

 陽太はそれを、必死に月代に隠していたのだ。

 月代が哀しい思いをしなくて済むようにと。


「ごめん、ごめんね、陽ちゃん」

「月ちゃんはなにも悪くない。月ちゃんが無事なら、俺はそれでいいんだ」


 よしよし、とまるで小さな子供をあやすように月代の頭を優しく撫でる陽太は、覚悟を決めた目をして月代に笑顔を向けた。


 陽太と月代は、月代の高校の卒業を待ってすぐに家を出た。

 父親は反対も賛成もしなかった。

 何も言わずに、出て行く2人を見送った。

 その姿はいつの間にか、月代の記憶の中の父親より一回りも二回りも小さくなっているように、月代は感じた。

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