第4話

 陽太が出会ってすぐの月代を事の他可愛がったのには、理由があった。

 陽太の母親は離婚をする3年ほど前に、お腹に宿った子を流産していたのだ。

 その子の性別は女で、陽太は妹ができた事を非常に喜び、誕生を今か今かと心待ちにしていた。

 陽太の父親も母親も、新たな命の誕生を心から喜んでいたはずだった。

 ところが、陽太の母親がその命を自身の腹の中で育んでいる正にその間に陽太の父親の浮気が発覚し、心労から母親の中に宿った妹の命は、儚くも流れてしまったのだ。

 陽太は出会う事すら叶わなかった亡き妹の姿を、月代の姿に重ねていた。

 陽太の母親は、離婚してから3年ほど後に月代の父親と再婚をしたため、もし無事に妹が生まれていたとしたら、月代と同じくらいの年頃になるのだ。

 今度こそ、実直で家庭を大事にする父親と優しい母親と可愛い妹との、この幸せな家族が長く続くのだと、陽太は思っていた。

 だが思いも空しく、その2年後に、陽太の母親は交通事故に遭い、命を落としてしまった。可愛い妹の命を、身を挺して庇って。

 この妹の事は、なんとしてでも自分が守らなければならない。

 陽太はそう、固く誓ったのだった。


 陽太の母親が交通事故で亡くなったのは、月代が10歳、陽太が15歳の時。

 実の母親を失ったその日に月代に掛けた言葉のとおり、その後も変わることなく陽太は月代を本当の妹のように可愛がり、大切に接した。

 それは、月代が中学生になり、高校生になっても。


「月ちゃん、一緒にお買い物行こうか。お給料出たから、好きなもの買ってあげるよ」


 出会った時はまだ中学生だった陽太も、月代が高校2年になると就職をして社会人としての生活を始めていたが、父親と月代の住む家から出て行く気配はなかった。

 陽太と一緒に居られること、そのことが、月代にとっては何よりも嬉しい事だった。

 ただ時々、陽太が顔や手足に怪我を負っていることがあり、月代は少し気になっていた。


「陽ちゃん、どうしたの?喧嘩でもしてるの?」

「いや、俺ドジだからさ、よく転ぶんだよ」


 月代が聞くたびに、陽太はそう答えて笑った。

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