第七師団と合流(1)

 12時55分。荷物が入ったリュックを背負って、私は冒険者ギルドの入口前に何とか到着した。

 待ち合わせ時間は13時だから遅刻ではないが、大事なミッション時は十分前行動をしろと、常日頃ルパートに口が酸っぱくなるほど注意されていた。先に来ていた彼を見て私は頭を下げた。


「すみません、お待たせしました! 他の皆さんは?」

「あっち。ここに大勢居ると依頼人や冒険者の邪魔になるからな」


 ルパートが顎で指した方向を見ると、少し離れた所に私達以外の全員が揃っていた。リリアナと彼の執事であるアスリーも居た。


(私が最後だったか……。こういう所が駄目なんだよなぁ)


 出動班の待機組には、私よりも後にギルドへ就職した人が三人居る。でも彼らは元冒険者だったり、王国兵団の元兵士だったりで、私よりも旅慣れていて腕も立つ。だから彼らを後輩などとはとても呼べない。

 碌な経験無しにギルドへ就職した私みたいな若者も居たが、そういった新人達は訓練の厳しさや、出動のキツさに根を上げてすぐに辞めていった。(ルパートとセスにいびられた人も居たようだけど)


 つまり私が出動班の中で一番の下っ端だ。そしてその立場に慣れて甘えてしまっている。気を引き締めないと!


「遅くなってすみません。すぐにみんなの元へ行きます」

「あ、ちょっと待て」


 私を呼び止めたルパートは何やらモゴモゴと言った。


「……アレ、いつにするよ?」

「はい? アレ?」

「街へ遊びに行く日。……デートしようって前に話したろ?」

「あ」

 

 仕事ではなく遊び目的で、ルパートと一緒に街へ行こうと約束していたんだった。

 途端に恥ずかしくなってきた。デート。でえと。Go on a date。


「この大きな任務が終わった次の日はどうだ? 流石に休みを貰えるだろうから」

「は、はい……。それで大丈夫です」


 部屋で逢うのは危ないから人が多い所へ行きなさい、キースにそう忠告されて計画された街デート。あれ、そう言えばキースも付いてくるとか言っていなかった?


「あの、キース先輩も誘うのですか?」


 ルパートは右手人差し指を自分の口元へ当てて笑った。


「内緒だ。二人で行くぞ」


 うわぁ、ルパートの金髪が日光に当たってキラキラしている。昨日会った聖騎士に負けていない。それに腹が立つけど改めて、この人ってば私好みのイケメンなんだよね。笑顔の破壊力が半端ない。

 過去にあれだけ酷くフラれたってのに、性懲りもなくまたトキメいてしまっている。私ってチョロい女だな。


 だけど……厳しい仕事内容の冒険者ギルドで、私が七年もやってこられたのはルパートのおかげなんだよね。他の新人は逃げているんだもの。きっと私が気づかない所でも、彼はいろいろサポートしてくれていたんだ。

 それにひざまずいてプロポーズしてくれたあの晩、あの時の彼は本心を伝えていたと思う。

 あああ。思い出してまた照れてきたぁ!


「おいチャラ男、女装男が付いてくるというのは何の冗談だ」


 みんなの元へ行くと開口一番、アルクナイトがルパートへ不満をぶつけた。どうやらリリアナに対する愚痴らしい。


「こんなヒラヒラした格好で戦場へ出てくるとは、おまえは正気か?」


 エンと同じ指摘をアルクナイトはしたが、彼だってイメージチェンジ前はかなり恥ずかしい格好をしていた。同じ尻振り仲間同士仲良くすればいいのに。

 リリアナはケロッと返した。


「ダークストーカーを目の前で撃ってみせたのだから、僕の強さはご存知でしょう? 魔王様」

「アルと呼べ。不意打ちのあの一回きりでは実力が測れん。しかもジジイも一緒だと言うではないか!」

「えっ、執事さんも? それは俺もマスターに聞いてないが」


 驚くルパートへ、執事のアスリーは上品な物腰で笑った。


「ほっほっほ。わたくしのことはどうかお気になさらずに。リーベルト様の背後霊とでも思って頂ければ」

「いや気になるだろ。アスリーさん、でしたよね? これから向かう先は犯罪組織の本拠地なんです。身の安全の保証はできませんよ?」

「だからこそ参るのです。わたくしはリーベルト様の影ですから」


 影にしては超目立っている。姿勢がいいなぁ。


「アスリーは強いですよぉ。元傭兵で私の銃の先生でもあるんですぅ」


 なるほど。アスリーもリリアナと同じ型の銃を装備していた。ルパートはふぅっと息を吐いた。


「同行を許可しますが、くれぐれも無茶はしないで下さいね?」

「……気に食わん! 俺の許可無く人員を増やすとは!」


 な~んかアルクナイトがカリカリしているな。牛乳飲みなさい。イライラに効くよ?


「よし、二台の馬車に乗り込んで行くぞ。王国兵団と合流後も俺達は基本、このギルドの馬車で移動することになる」


 そうなんだ、良かった。だったら野営用のテントを張れなくても、馬車の中で寝ることができるな。座りながらだけど。夜露をしのげるのはありがたい。


「全員で九人だから五人と四人だな。どうやって分けるか……」

「あっ、年長組と年少組に分けるべきだと思いますぅ。年が近い方が話しやすいですしぃ」


 リリアナが手を挙げて発言し、マキアが「賛成!」と続いた。

 年齢順と言うと……アルクナイト(桁が違う最年長)、アスリー(60代?)、キース(29)、エリアス(29)、ルパート(もうすぐ28)、私(25)、マキア(23)、エン(21)、リリアナ(19)となる。


「それでいいか。年長四人と年少五人で馬車を使おう」

「ちょっと待てルパート。何故年長組が四人と少ないのだ?」


 すかさずエリアスが疑問を呈した。


「そりゃ年長組の方が身体の大きい男が多いからさ。馬車が狭くなるだろ?」

「そう言っておまえはちゃっかり年少組に混ざるつもりだろう? ロックウィーナの側に! ずるいぞ!!」

「うっ……。いや年少組にはまとめるリーダーが必要だと思ってさ。俺主任だし」

「それなら僕が適任ですよ。いざという時に、障壁で馬車ごと護ってあげられますから」

「出しゃばるな白。強さでは俺がナンバー1だ。俺がちびっ子どもの馬車へ乗り込もう」

「ははは、そうですね。アルにはみんなの警備に当たってもらいましょうか。空を飛んでもらって」

「殺すぞ白」

「ほっほっほ、これではいつまで経っても馬車に乗り込めそうにないですな」


 アスリーの言う通りだ。何て大人げない大人達の集まりなんだろう。

 ここでエンが軽く手を挙げた。


「ロックウィーナに告白していない者が、彼女と同じ馬車に乗るべきだと思います」

「なっ」


 魔王、勇者、元聖騎士、元僧侶が余計なことを言うなとエンを睨みつけたが、彼は動じなかった。


「同じ馬車にロックウィーナを狙う男が乗ったら大変です。彼女の身の安全を計る為には、隔離するのが一番かと」


 エンの意見に年長組は言い返せなかった。やましい気持ちが有ったのだろう。おーい。

 結局私はアスリー、マキア、エン、リリアナと一緒の馬車に乗ることになった。やたらと私に引っ付きたがるリリアナは微妙じゃね? という意見も出たが、至近距離での戦闘は私の方が断然強いだろうということで落ち着いた。


「ありがとうエン。場を収めてくれて」

「いや……。アンタも毎日大変だな。鍛えられて精神修養にはなると思うが、俺だったら鬱陶しくなって途中で始末しているぞ」


 本気で同情の目を向けられた。後ろにまだ年長組居るよー。睨んでるよー?


「やったねロックウィーナと同じ馬車! いろいろ話したかったのに、いっつも先輩達に邪魔されてきたからさー」


 先輩か……。マキアとエンはキースとルパートの後輩になったんだなぁ。感慨深い。


「あまり調子に乗るなよマキア。ロックウィーナと親しくなり過ぎたら、おまえもあっちの馬車に移動だからな」

「えっ……それは嫌だ。うわ、先輩達が怖い笑顔で手招きしてる」

「ほっほっほ。ロックウィーナ様はおモテになるのですな。流石はリーベルト様が……」

「はいはーいアスリー、とっとと馬車に乗ろうねー」


 執事は受付嬢に背中を押されながら私達の馬車へ乗り込んだ。続こうとした私の横をアルクナイトが通り過ぎた。


「次は消しにくい印にする。覚悟しろよ」


 捨て台詞を吐いて、アルクナイトは向こうの馬車へ乗り込んだ。ヒィ。魔王が不機嫌な理由はそれだったか~!!

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