5 情事
狩りの後の喧騒の中、魔獣を狩場の外に追いやった所為か、熊やら猪、鹿が出たそうで男たちは皆興奮している。アダルムンドは黒い騎士服姿で、私がどこに居てもいつの間にか探し出して側に来る。
「狩りの後は気が高ぶっているんだ。君に静めて欲しい」
アダルムンドの手が誘う。
誰にも気付かれぬよう連れ出して、男に捕らえられたままどこぞの部屋に連れ込まれる。部屋に入った途端キスをされて私はもうこの男に抗えなくなる。慣れた手付きでドレスを剥ぎ取られ、逃げ場もなく抱き上げられてベッドに横たわった。
私のような小娘など意のままにするのは容易いだろう。
私は逃げない。明日死んでしまうんだもの。そしてこれは夢の続きだもの。
この方はオディリアの婚約者。決して私のものではない。私のものなんて誰ひとりいない。私はこの人に捧げられた憐れな贄。食べられて捨てられるだけの。
でも、食べようと思ってくれる人がいるのが、そしてこの方は第三王子なのだけれど、それよりもこの暖かい身体が今だけでも私に向いていることが嬉しい。
この私の薬で生き返った男は、今だけ私のものなのだ。
手早く服を脱いで、すぐに覆い被さって来る男。
何度もキスをして、私の身体中をその大きな手で撫でさする。
まだ硬い身体を指で、舌で、何度も丹念に解して、アダルムンドは私を抱き寄せる。
震える心を宥めて、アダルムンドの身体にしがみ付いて受け入れる。
「くっ、きついな」
私の身体が引き裂かれるようで悲鳴を上げる。男はゆっくりと確実に押し進める。私の身体を逃がすまいと掴まえて私の秘密を暴く。
「ううっん……くっ……!」
苦しくて男にしがみ付く。足が揺れる。宥めるようにキスをしながら、乳房を揉まれて声が出る。男の侵攻は止まらない。じわじわと押し入ってとうとう到達した。
荒い息を整えて突き上げ始める。だんだんと早くなる男の動きに、私の頭が熱く白く染まって行く。
男は最後の突き上げをして、そのまま私の内部に欲望を吐き出した。
「初めてだったんだな」
シーツに残る痕跡にニヤリと唇を笑ませる。
「お前は今夜、アイゼンエルツ公爵のものになる予定だった」
「え」
アダルムンドの言葉に驚く。
「どうして……?」
アイゼンエルツ公爵は私とモーリッツとの婚約を纏めた人だが。
「公爵はお前と、お前の薬作りの腕が欲しかったのだ」
「でも、私とモーリッツの婚約を決めたのは公爵ですが」
「あいつは馬鹿だ」
ぐったりと横になった私の身体に悪戯をしながら囁く。
「こんな身体をどうやって隠していたんだい」
男の指に唇に弛緩した身体が跳ねる。
「ああっ……」
「ここも、こんなに俺を誘っている」
私の身体を暴く。
私の内部をかき混ぜる男の長い指。すぐに入って来る熱い塊。今だけでいい。私は死ぬのだから。燃えて燃えて燃え尽きて燃えカスになってしまいたい。
あなたのすべてが欲しい。燃やし尽くして欲しい。
ああ、身体が熱い。燃えるようだわ。このまま死んでしまいたい。
「どこもかしこも俺のものだと刻み付けてしまおう。俺を忘れないように」
男は私の身体中に吸い付いて赤い痕をつける。
蕩けてしまいたい。身体ごと、心ごと、何もかも。
蕩けて消えてしまえばいい。
身体が痛い。まだ何か挟まっているよう。
「エルーシア……、どうしたんだ?」
身体が辛くてぐずぐずしていたらアダルムンドが起きた。
「薬を飲もうと探していたのです」
「辛いのか、無理をさせてしまったな」
案外優しくアダルムンドが言うのでまじまじと見てしまう。
「大丈夫ですわ」
「辛い時は辛いと言えばいいのだ」
「いいのでしょうか」
「早く薬を飲め」
「はい」
飲んだのは痛みを軽くする薬だ。傷も少しは癒すだろうか。
「お前の薬はよく効く」
「薬作りは褒めてもらえます。上手く作ると、皆が褒めてくれますけれど」
全て取り上げられて私の手元には何も残らない。作ったことも夢の中の出来事のように消えて行く。そしてもっと良いものをと望むのだ。奇跡が何度も起きると思っているのだ。
「ノスティッツ伯爵家には時々薬師が生まれると聞いた。優れた薬師はどんな病も治す薬を作るという」
私が作る薬は全て取り上げられていたから、効き目は分からない。でも、奇跡のように上手く出来た時は、少しずつ内緒で取って置く。夢と消えてしまわないように。
「私は地味で目立たない女だけれど、薬は──」
「お前は綺麗だよ」
「そうでしょうか?」
薬作りより容姿を褒めてくれる人がいるなんて。
「もっと自信を持ってよい」
「こんな茶色の髪、茶色の瞳の私ですのに」
男は取り合わずに「冷えるだろう」とベッドの中に引き入れる。知らぬ間にシーツが綺麗になっていた。抱き込まれて口付けられる。冷えた身体に男の体温が心地よい。
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