裏山のツチノコ
笹川 景風
裏山のツチノコ
僕の”ツチノコ探し”は中学2年の夏、小学校からの片思いの女の子にフラれたことで幕を挙げた。
「ずっと好きでした付き合ってください!」
三階の屋外の渡り廊下
強い日差しと青空の元、初夏の生暖かい風が音を立てて吹く。
よし、練習通り完璧だ。
一息で長年の思いを言い切った私は彼女の顔を見つめる。
戸惑った彼女の目が私を見つめ返す。
「ごめんね。あなただれ?」
彼女は鳥のさえずりのような美しい声でそう尋ねた。
焦るな俺!きっと彼女は面を食らって一時的に思い出せなくなっただけだ。
「たっ...たたたtたくみですうううぅっぅ、今同じクラスで、小学校では合唱部で一緒でしいtった」
やってしまった。だけど、思いは伝えたんだ。
固唾を呑んで彼女の次の言葉に耳を澄ます。
「ごめんね。覚えてないや。わたし幸雄君と付き合っているの。じゃあね..」
大きな積乱雲が太陽を覆いつくし、生暖かい風がtシャツ袖から入ってきて背中を這う。
覚えてない....?そんな馬鹿な!4年半も一緒なのに、クラス内ですれ違ったり、廊下ですれ違ったり.....話したことはなかったけど、顔ぐらい覚えてくれてもいいじゃないか!
ダメだ彼女を責めてはいけない、悪いのは凡人でなにも目立たない自分のせいだ。何もできない自分のせいなんだ。
勝手に告白し振られ 勝手に自己反省した私は四つん這いに崩れ落ちた。
灼熱の太陽でホットプレートのように熱くなったコンクリートの上に
目から出た血の涙が落ちる。
「ジュッ」と瞬時に蒸発し紺碧の空へと消える。
このままではだめだ、俺はBIGな男になると決めたんだ。誰も達成できていない偉業を成し遂げるんだ。そうすればあの子も振り向いてくれるはず。
僕は脳内の思考回路の
ツチノコは60cmほどの蛇型の生物らしいが誰も捕獲できたことはないらしい。
これを捕獲すれば私は世界でたった一人の特別な存在になれる。
こう思い立った僕は、彼女の尻からツチノコへと狙いを移し、下校後、家の裏山の竹藪の中に虫網とカゴを携え押し入った。
裏山の中は別世界だった。苔むした巨大なタブノキが風に吹かれカラカラ笑う。小川は何にも押しとめられることなく流れつつづける。私は久しぶりに入った裏山に感動し、ツチノコそっちのけで好奇心に任せ歩きまわたが、ハッと本来の目的を思い出すと石をひっくり返したり藪をつついて回った。
体中がかゆいと思ったら体に蚊が群がっていた。「うあああああぁぁっぁあ」叫び声をあげ虫網を振り回すが、なかなか振り払えないので一心不乱に走った。木々の間を駆けると風になったような心地になった。息切れして立ち止まり、辺りを見渡すと蚊はいなくなっていた。
深呼吸して落ち着いて考えると、叫びながら蚊から逃げるという痴態に羞恥の情を覚えるが誰も見てはいまい。ツチノコ探しを再開だと、切り立った急斜面を木の根をつかみよじ登ると、地面にサッカーボールほどの穴を見つけた。
これはツチノコの巣に違いあるまい。近くにあった木の枝でほじくってみるが奥は深く何も出てこなかった。少しその場で格闘したが諦めて、それから2時間ほど裏山を探し回ったが、蛇一匹さえ見つけることさえ叶わなかった。
もう撤収しよう。
日が傾き青々としたコナラの葉が橙色に染まる。暑苦しい風も冷たさを含むようになった。ヒグラシの鳴き声が木々に反響する。
手当たり次第に振り回し木の葉と小枝だらけになった虫網と泥だらけのカゴをもって獣道を下る。
今日の晩御飯は何だろう。
裏山のツチノコ 笹川 景風 @sugawara210
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます