【19.最上級生となって】
キララが聖女に通うようになって一年の時が流れ、再び春が巡ってくる。
「わぁ、
昨年は4月半ばになってからの転入だったため、その光景を見ていなかったキララは、2階の教室の窓から、逢坂聖神女学院前の通り沿いに植えられた桜の木々が満開状態になっている様を見て、感嘆の溜息を漏らした。
「絵になる光景ですわよね。生徒はもちろん、入学式に新入生と一緒に来た保護者もこぞって写真を撮ってツィ●ターやイ●スタにアップしてますのよ?」
初等部からの生え抜きの聖女生である恵恋は、心なしか自慢気にそう解説する。
「いや、まぁ、キレイなことは否定しないけどさぁ。これ、花が散る頃になると割とヒサンだからね? 大量の花びらが路面に散らばって、そこにさらに雨とか降ったら……」
あたしも去年、スッ転びかけたし──と、姉とは対称的に眉をしかめる花梨。
「花梨さんは……」「我が妹ながら……」
「「風情がないですね(わ)」
キララと恵恋が揃って、(いくぶんわざとらしく)溜息をつく。
「へーへー悪ぅございました。どーせ、あたしは風情のわからぬ女ですよー、だ」
ぷっくりムクれる花梨。まぁ、こちらも半分以上は演技で、姉と親友の言葉に合わせてジャレているだけだ。
「あんたたち、ほんと仲いいわね」
「ですわね~」
3人に声をかけてきたのは、今年からキララと同じクラスになった(ちなみに恵恋たちとは今年も同じクラスだ)塩崎香津実と雲居雁真弥。
朝倉姉妹の友人で、前者は花梨、後者は恵恋と特に親しいようだ(香津実についてはツンデレっぽい発言も目立つが)。
キララは2年時に転校してきたので知らなかったが、1年生の時は4人共一緒のクラスだったらしい。
「どーせ、相も変わらず花梨がしょーもない発言して、恵恋たちが呆れてんでしょ」
「しょーもなくなんかない! 香津実、あたしの
「まぁ、此処から見える校門前の桜並木は、本当に見事ですねぇ」
「ええ、その通り! さすが、真弥さん、よくお分かりになられてますわ」
言い合いしている
「! へぇ、あんた、意外とイイ顔で笑うのね」
その光景を見て無意識に微笑んでいたキララに、香津実がそんなコトを言うのは、転入当初の「孤高の優等生」的な風評の名残りだろうか。
去年一緒のクラスだった子たちからは、だいぶ印象は和らいでいるはずなのだが、香津実とは別クラスだったので、そういうイメージが残っていたのかもしれない。
「ええ、でも──少し切なそうなお顔でした。何かお悩みでもあるのでしょうか?」
数日前にクラスメイトになったばかりで、まださほど親しくないはずなのに、そんな心配をしてくれる真弥は、恵恋とはまた違った方向で「大事に育てられてきた良家のお嬢さん」なのだろう。
「あはは、お気になさらず。桜を見て、「中学生生活も残り1年なんだなぁ」ってちょっとしんみりしていただけですから」
真弥を(そして他の3人も)心配させないようキララは、嘘ではないがちょっとだけ“真意”からはズレた言葉を告げて、彼女たちの懸念を笑い飛ばす。
「まぁまぁ、キララがそう言ってるんだから、きっと大したことじゃないって。それよりさ、この5人で駅前の「ビックリエコー」にカラオケしに行かない?」
やや強引に雰囲気をぶった切る花梨のマイペースさも、こういう時には有難い。
「私は賛成です」
「わたくしもです。キララさんの歌を聞くのは初めてなので、楽しみですね~」
「構わないけど、花梨、羽目を外し過ぎるのはなしですわよ?」
「まぁ、今日は部活はないし──行ってあげてもいいわ」
「おねーちゃんはともかく、香津実はなんでそんなにエラそうなのよ!?」
ワイワイガヤガヤと「女三人寄れば姦しい」を実証しつつ、恵恋たちは教室を出た。
4月のクラス替えでは、キララも含めた5人が同じクラスになれたため、今年度はこの
(残り一年──「存分に楽しみ」つつ「しっかり頑張ろう」)
密かな誓いを胸に抱きつつ、キララは友人たちの後を追いかけるのだった。
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