【15.進め、聖女乙女!】

 日本の小・中・高校の秋のメインイベントと言えば、やはり体育祭(運動会)と文化祭だろう。

 逢坂聖神女学院でもその例に漏れず、10月半ばに学院祭(文化祭)、11月初週に体育祭が開催される。


 「体育の日と文化の日の日程からすると、逆の方が適切な気もするのですが……」


 まだまだ暑さの残る9月頭に、6時限目のLHRでクラスの出し物を何にするかの話し合いが終わったあと、何の気なしにそんなコトを呟くキララ。


 「ああ、それは、1年の時に経験したからわかるのですけれど、体育祭より学院祭の方が準備に圧倒的に時間が必要だからですわ」


 そんな疑問に、代表委員の恵恋が応えてくれる。


 「体育祭って、極論、誰がどの種目に出るのかさえ決まってればいいからねぇ。開催日の前の週に、一応リハーサルはあるけど」

 「なるほど。言われてみれば、確かにその通りですね」


 花梨が姉の言葉を補足し、キララも納得する。


 「それにしても、ウチのクラスは模擬店で“和風メイド喫茶”ですか……」

 「キララさんは演劇推しみたいでしたから、残念でしたわね」


 5つほど候補が挙げられたなか、演劇が9票、喫茶店が10票で惜しくも後者が採用されることとなった。

 その後、喫茶店のくくりの中で何をするかが話し合われた結果、「和菓子と甘味、日本茶を出して、和風のデザインを着たメイドさんが接客する」というコンセプトに落ち着いたのだ。


 「いえ、さほど演劇に強い拘りがあったわけではありませんので。むしろ喫茶店にも、大いに興味があります」


 恵恋の言葉に首を横に振るキララの言葉は、強がりや遠慮ではなく本心だ。


 「それならいいけどね~。そう言えば、キララってお料理とか得意なんだっけ?」


 技術家庭科の時間のキララの手際を思い出して、花梨が尋ねる。


 「得意と自慢できるほどではありませんが──ええ、一通りの基礎は心得ています」


 謙遜しつつも、一定の自信は垣間見せるキララ。14歳(公称)の身空で、一家の台所を預かっているのだから、それも当然だろう。


  * * * 


 その後、実際の模擬店の準備に入った段階で、キララのその言葉が嘘ではない……どころか、むしろこの催しに最適な人材であろうことが、クラスの皆にも理解される。


 「当日出すのが日本茶──緑茶とほうじ茶だからとしても、単にお湯を注げばよいというものではありません。淹れ方にもコツがありますから、接客係の方は事前に練習しておきましょう」


 「制服は、大正女学生風の着物&女袴にエプロンとヘッドドレスでメイドらしく見せる方向でいきましょう。材料費だけ出していただければ、着物の制作は私が引き受けてもよいですが……レンタル? その方が安く済みますか。では、あとはメイドとしての所作の基本をお教えしますね」


 「“和”がコンセプトですから、当日の教室の飾りつけは──そうですね、茶室をイメージして、木目調の壁紙をDIY店で購入するとよいのでは? 床は畳……というわけにもいきませんね。なら、机と椅子をこんな風に並べて、和柄のクロスを掛ければ、それらしく見えると思いますよ」


 衣・食・住の3方面を満遍なくアドバイス&指導した結果、中等部のものと思えぬクォリティの“和風メイド喫茶”が、当日展開されることになる。


 その陰で……。


 「キララって、家事とかメイド関係のことになると口数多くなるな~」

 「しっ、およしなさい!」


 という会話が朝倉姉妹の間で交わされたかは、皆さんの想像にお任せしよう(ヒント:やりすぎ)。


 ──なお、本人は、当日わざわざ忙しい“仕事”の時間を縫って来店してくれた養父兼主にその八面六臂ふんとうぶりを褒められて、大いに喜んだ様子。

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