待ってました、パラダイス
王国騎士団の宿舎に、俺は部屋をもらうこととなった。
一階の一番奥で、隣の部屋はキャットの部屋だそうだ。
宿舎には、王国騎士団の騎士たちと従者がいた。他に、騎士団付きの僧侶や医師も混じっている。もちろん、全員がオッパ……いや、お姉さんだ。
いやもう、まさに壮観。
絶景かな、絶景かな。
あっちを見てもオッパイ、こっちを見てもオッパイ。どこを見てもオッパイ、オッパイ、オッパイ。
小さなオッパイから大きなオッパイまで様々なオッパイがずらりと……ああ、いや、うん。まあその、良い景観だということで。
何か食べるものをと厨房に連れて行かれたが、時間も時間だったので、料理人たちは既に就寝していた。隅に置いてあった予備の料理を取り分け、頂く。
パンとシチューとサラダをキャットが持ってきてくれた。サラダ菜のような葉物野菜に、柑橘系のフルーツを添えたサラダに香辛料のきいたドレッシングがよく合っていておいしかった。シチューに入っている肉も柔らかくてジューシーだったが、俺の知っている肉とは少し違うような気がしたので、敢えて何の肉かは尋ねなかった。
「おいしいだろう、ユーチ。この宿舎の料理人は元は女王の専属料理人なんだぜ」
確かに、おいしい。
おいしいが……俺は、キャットの手にしたゴブレットから目を離すことが出来ない。
「ほら、これも飲んでみなって。おいしいから」
そう言ってキャットが、俺の手元にあるゴブレットをぐいぐい押し付けてくる。ついでに肩のあたりに、豊満なオッパイを押し付けてくる。
「これはさ、南の国から取り寄せたワインなんだ」
「はあ……」
ワイン、ね。
俺は普通に水が飲みたいだけなんだけれど。
「あ、それともエールのほうがいいか?」
いやいや。
ワインはタンニンの渋みが苦手なのだ。エールの苦みもあまり得意ではない。では何が好きなのかというと、チューハイ系の飲みやすい甘みのある飲み物が、どちらかというと好きだ。そうでなければ、普通に水が飲めたらそれでいいんだけどな。
まあ、出されたものに文句を言うのもアレなので、とりあえず食べて飲んで、さっさと寝るとするか。
ワインをちびちびと飲みながらパンやシチューで喉の奥に押し込む。
まあ、悪くない……と、思う。
悪くないんだが、どうも、こう……なんだろう、元いた世界の食べ物が恋しいというか、何というか。
もそもそとパンを飲み込み、サラダを腹に押し込む。最後にシチューを平らげて顔を上げると、キャットがこちにを見てニヤリと笑った。
「物足りない、って顔してる」
言いながらキャットの指がつん、と俺の頬をつついてくる。
まあ、物足りないというか、水が欲しいとは思っているだけなんだけれど。
「何が足りないんだ?」
キャットの率直な物言いは、好感が持てる。
クリス団長の回りくどいい喋り方に比べると、断然わかりやすい。
「ああ……ちょっと、水が飲みたいな、と」
「水?」
キャットの表情にいきなり陰りが差す。
「水は溜め水しかないぜ」
どういうことだ?
尋ねようとしたところで、厨房の入り口にクリス団長の姿が見えた。
「ああ、ここのいたのですね、ユーチ殿」
団長は食事を摂ったのだろうか。そんなこをぼんやりと考えながら俺は、立ち上がる。
「何かご用ですか」
キャットがどこか残念そうな顔をしているのが目の端に映る。
「食事は足りましたか?」
「はい、おいしかったです」
形式的に俺は答えた。女王の専属料理人だった人の作った料理だ。おいしくないはずがない。ちょっと、俺好みの味ではなかっただけだ。
「それでは、私は屋敷に戻るので後のことはこのキャトリーヌから教えてもらってください。私や彼女がいない時に何か困ったことや足りないものがあればステラに声をかけるように。他に……」
クリス団長の言葉を引き取るようにして、キャットが口を挟んできた。
「アイシアには気を付けること」
おいおい、酔ってるだろう、キャット。ほんのり目元が赤くなって、妙に艶っぽい。そんな状態で俺の肩に腕を回してキャットは言った。
「まあ、後のことはこのアタシがついてるんだから心配無用。安心して屋敷に戻れよ、クリス団長」
酔っ払いに絡まれた気分がするのはどうしてだろう。
キャットのことは嫌いではないが、少しばかりスキンシップが度を超えているような気がする。
俺は誤魔化し笑いを浮かべて、それでも団長に大丈夫ですと頷き返す。
「それでは、また明日の朝」
隙のない動きのクリス団長は踵を返すと厨房を立ち去った。流れる金髪も美しく、すらりと背を伸ばした後ろ姿が凛々しく映る。
「さーて。うるさい小姑は消えたから、部屋でゆっくり飲みなおすかな」
うーん、と伸びをしながらキャットは厨房の片隅を物色している。ワインとつまみになるものを選び手にすると、「さあ部屋に戻ろう」と声をかけてきた。
俺はまだ、この宿舎の構造や騎士団の規律なんかがよくわかっていない。覚えるまでは、単独行動は控えたほうが無難だろう。
キャットと連れ立って部屋のある棟へ戻った。
時折、すれ違う騎士や従士たちにキャットは声をかけた。全員と知り合いというわけではなさそうだが、それでもかなりの人数とつながりがあるようだ。
部屋の前までくるとキャットの腕がぐいぐいと俺の体を引き寄せた。肩には張りのあるオッパイの感触。耳元に甘ったるい誘惑の吐息がかかり、俺は柄にもなくドギマギする。
「一人寝はつまんねーけど、かといって娼婦を連れ込む気にはならないし……ユーチ、一緒に寝ようか?」
試したいんだ、とキャットは言った。
いや、試すって、ナニを?
「アタシらはさ、女王さんと違って男なんて雲の上の存在なんだ」
言いながらキャットは俺を壁際に追い詰める。後ろ手にドアの位置を確認しながら俺は、逃げる隙がないか探す。
「だから……さ」
ドアノブに手が届く前にガシッ、と手首を捕まれた。
「ちょっとベッドの上でくんずほぐれつしてみようじゃないか」
目の前にオッパイが迫ってきて、むにっ、と挟まれる。壁ドンならぬ、壁バイン。
ああ、幸せ。
苦しいけれど、でも幸せ。
「ユーチ、逃がさないぜ」
耳元にかかるキャットの吐息は甘いワインの香りがしている。
「いや、あの……」
それでも俺は、まだ決めかねていた。
出会って一日と経っていないというのに、いいのだろうか。
ほとんど見ず知らずに近い女性と……その、親密な仲になるのはちょっとまだ早いのではないかと……
「ほら、さっさとベッドに行こうぜ」
キャットの手が俺の首根っこを掴んできた。俺はまるで子猫のようにポイ、とベッドに投げ出される。
「ヒッ……」
潰れたカエルのような恰好でベッドの上を這いずって逃げようとすると、キャットの豊満な体がのしかかってきた。プロレスで、きれいにダイビング・ボディープレスが決まったような、そんな状態を想像してほしい。
「ぐぇっ」
情けない声が漏れるのも気にせずに、キャットは俺の体をベッドに抑え込みにかかる。
あ、ダメ……このままだと俺、冗談抜きで犯されちゃう。
「……マジかよ」
呟きと同時に諦めの気持ちがこみあげてくる。
ふっと体の力を抜くと同時に、キャットの力強い手に体をひっくり返された。
「それじゃあ早速……」
キャットに足を掴まれ、ぐい、と引かれると足を大きく広げた格好になる。ついでぐわしっ、と股間を鷲掴みにされ、俺のタマタマがキュンっと縮こまる。
「見せてもらうぜ」
そんなご無体な……。
乱暴に着ているものをはぎ取られ、気分はすっかり生娘状態で。
いや、この歳まで女性と経験がなかったなんてわけではないのだけれど、こんなふうに襲われるのは趣味ではないというか、なんというか。
「なあ。これ、ちっちゃくない?」
下着まで引きずりおろしておいて、キャットの第一声はそれだった。
……もうムリ。
俺、恥ずかしくて情けなくて、憤死しそう……。
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