ようこそオッパイパラダイス
王城の入り口では、兵士姿のお姉さんたちに出迎えられた。
綺麗なお姉さんがいっぱいのこの世界に、果たして男はいるのだろうか。
女王の謁見室に来るまでに男の姿を見かけなかったので尋ねたところ、城を守っているのは基本的に女たちだと返された。男はいないのか尋ねたら、女王の夫と愛人が後宮にいるとのこと。この国は、まるで蟻か蜂のように、女社会が出来上がっているらしい。男は、女王の夫と後宮にいる男たちが十数名。他は女ばかりだ。
それで、俺はこれからこの国の女王に会うことになった。異世界転移したことだけでなく、俺が男だから特例だとクリス団長は教えてくれた。
謁見室に入ると、既に女王が正面の王座に座っていた。
まだ若い、三十代初めぐらいのメリハリのあるボディのオッパ……いや、女王だ。
「吾がこのエロイ国を統治するエロース女王である」
俺の顔をじっと凝視して、エロース女王は言った。声には威圧感がある。人の上に立つ者が持つ威厳に溢れている。
「して、この者の名は?」
女王は俺ではなく、クリス団長に声をかけた。
「はい、転移の森の入り口近くにおりましたので、連れて参った次第です」
クリス団長は、事の経緯をざっと説明した。
転移の森と呼ばれるあの森で、俺がゴブリンに襲われていたこと。哨戒に出ていた王国騎士団が事態に気付き、俺を助けたこと、などなど。
時折、女王が尋ねる以外は淡々と会話が進んでいく。
俺の出る幕ないでしょう、これは。
暇だなー。俺、じっと立ってるだけだしさ。
あまりキョロキョロするのもどうかと思いながらも、あちこちを眺める。
そういえば、エロース女王の隣にも椅子がある。造りは女王の椅子と同じだけれど、すこしばかりこちらのほうが小ぶりだ。
「ところで。そなたの名前は何と申す」
ようやく、女王の視線が俺に向いた。
いやー、長かったなー。忘れられたんじゃないかと思っちゃったよ。
「
俺の言葉に女王は鷹揚に頷く。
「転移の森にいたからには、異世界からやってきたのだろうが……まことか?」
「はい、俺はこことは別の世界……日本という国からやってきました。」
「ニホ……?」
エロース女王が小さく首を傾げる。
「ニホン、だそうです」
クリス団長の言葉に、女王は頷いた。
「その国では、そなたは何をしていた? どんな生活をしていた?」
俺は……ごくごく普通の庶民として生まれて、育った。ごく普通の中流家庭の子どもが通う公立学校に通い、ごく普通の私立大学を出て、ごく普通の会社に勤めるサラリーマンになった。そんなことをどうやって伝えればいいだろう?
「えっと、ごく一般的な家庭に生まれ、育ちました。成長してからは仕事をしていました。物を売る仕事です」
「ほう、物売りか。何を売っていたのだ?」
物珍しそうに目を丸くして、女王は聞いてくる。
「水を売っていました」
水は、有名な源泉の水を契約して販売していた。ミネラルウォーターのセールス販売の傍ら、ウォーターサーバーのレンタル販売もしていた。だけどそんなこと言っても、ここの人間には理解できないかもしれない。
「水……とな?」
「はい。地下水の中でも水質がよく口当たりの良いものを瓶に詰めて売るのです」
「飲めるのか?」
「もちろんです。なめらかな口当たりで飲みやすく、美容にもいい、そんな水を売っていました」
美容にも……と、女王は繰り返すと、うむむ、と低く呻いた。
「吾もその水を飲んでみたいものだ」
「エロース女王!」
慌ててクリス団長が声をかける。
「言ってみただけじゃ」
女王はニヤッと笑うと、俺をじっと見つめた。
「嘘は言っておらぬようじゃな」
嘘なんか言っても何の得にもならないからな。
「それで……どのような女の庇護下にあったのだ、そなたは」
は?
「夫のエロイナ・エロイ・ウィンナー卿は、吾の庇護下にあり、この宮殿で暮らしておる。吾の十二人の愛人たちも後宮におるが、誰一人として不自由はさせていないぞ」
庇護下、か。
まさしく蟻か蜂の世界だな。男共の庇護をするかわりに、何もさせずただ女王だけのために囲い込み、飼い殺すのか。
「俺は……成人してからは一人で生活をしていました。庇護を受けたというのなら、社会からの庇護を受け、俺は生かされていたと言えるでしょうか」
「ふむ」
「だから……」
「して、その社会を動かしていたのは? それは女たちではないのか?」
と、女王は身を乗り出して尋ねてきた。
男も女も関係ない。社会を動かすのは、万人だ。男も女も、年寄も子どもも、全ての人が一枚の歯車となり、それらが組み合わさって社会を動かしていくのだから。
「俺のいた世界では、男も女も社会を動かしていました。皆が皆、互いに手を取りあって社会を動かしていくのです」
「ううむ……そなたの言うことはよくわからん」
眉間に皺を寄せ、女王は一瞬、黙り込んでしまった。
いやまあ、俺だってそんな偽善だらけの社会、ありえないのではないかと思っているからな。そんな綺麗ごとだけの社会なんて、現実にはあり得ない。だけど、理想論としては間違ってはいないと思うのだ。何より俺のいた世界では、理想と偽善とのバランスをうまく保ちながら、社会を回しているじゃないか。
「……男とは、弱いものじゃ。わが国では、女がいなければ男は生きていくことができん。ならば吾が庇護するのが筋ではないか? この国で最も強い吾が彼ら男たちを守り、慈しむのが筋ではないのか?」
考え考えしながら女王が言葉を紡ぐ。
きっと、この国ではそうなのだろう。強い女が弱い男を守っていかなければ、社会が成り立たないのだろう。
「女王のお言葉はごもっともです」
「ならば、吾の言いたいこともわかるな?」
イヤだ。俺は首を横に振った。
言いくるめられたら負ける。そんな感じがする。
そして負けるということは、女王の愛人たちと同じように後宮に入れられることになるのだろうということが、なんとなく感じられた。
これは、負けられない。
「お心遣い、感謝します。ですが俺は……」
「エロース女王陛下、この者は異世界より転移してきたばかりで作法がわかっていないのです。私が責任を持って躾けますゆえ、王国騎士団の預かりとさせてはいただけないでしょうか」
不意にクリス隊長が提案した。
「む、それもそうじゃな……」
女王が難しい顔をしてこちらを見つめる。
「そなたも……そのほうが、良いようだな」
納得はしていないようだが、一旦引いてくれるつもりのようだ。
「ありがとうございます、女王陛下」
俺は頭を下げた。
よく見ると女王の口元がヒクヒクとなっている。きっとこの状況がものすごく不本意なのだろう。
隣で跪いているクリス隊長にちらりと目を馳せると、彼女もどこかホッとしたような表情をしている。
「では、ユーチよ。しばらくの間、そなたを王国騎士団の預かりとする」
女王の言葉に俺は深々と頭を下げた。
クリス隊長もいっそう深く頭を下げる。
こうして俺は、王国騎士団預かりの身となったのだ。
ようこそ、オッパイパラダイス!
ようこそ、この世の楽園!!
毎日あの素晴らしいオッパイたちを眺めることができるのかと思うと、俺は今から楽しみで仕方がない。
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