異世界の花嫁はチープな能力に甘く啼く
篠宮京
異世界転移したらオッパイに囲まれた
いわゆる異世界転移というのを経験したばかりの俺は、異世界転移なんてクソ喰らえ、ついでに特殊能力なんてのもクソ喰らえだと思ったね。
異世界ものにつきものの特殊能力なんて、そんな都合のいいものがあるわけないんだよ。
飛ばされた先は真っ暗な夜の森。
何も見えない手探りの中、周囲にはわけのわからないモンスター。助けてくれと叫んでも叫んでも、誰も助けてはくれない。
ああ、もうダメだ。俺はこのまま殺されてしまうんだ。
こんな、得体のしれないモンスターたちにボロ雑巾のように扱われ、引き裂かれ、食べられてしまうのだ。
そう思って背後の岩にしがみついたところで、暗がりの向こうに灯りが見えた。
「たっ……助けて!」
腰が抜けてこれ以上は動けない俺の目の前に、ゴブリンらしき様相のモンスターが迫ってくる。
こんな、ゲームじゃ序盤に出てきそうなモンスターに殺されてしまうなんて、俺は嫌だ。
転移ものや転生ものにつきものの特殊能力は、何故か使うことが出来ない。いや、そもそも持ってないのか、俺が。
ていうか、皆どうやって特殊能力持ってるってわかるんだ?
「助げっ……だずげで!!」
ガシッ、と足を鷲掴みにされ、ズルズルと地面を引き摺られそうになる。慌てて岩にしがみつき直したが、ものすごい力で引っ張られる。
痛いから!
ゴツゴツした石が転がってる地面を引き摺られたら、絶対に痛いから!!
「誰か、だずげででで……」
あっ、漏らしちゃいそう。
マジで助けてくれ、誰でもいいから。
泣きの入った状態でチビリそうになりながら、現代日本からやってきた俺、
あまりにもしぶとく岩にしがみついているからか、他からも手が伸びてくる。ズボンをずらされ、そのまま半ケツになりながら助けを求める。
「だずげでぇぇぇ、ぇ、ぇ、ぇ……」
あ、もうダメ。タマタマがキュッとなって、ヒュンッと
「いたぞ、あそこだ!」
ようやく人の声……ん?
「大丈夫ですか、今お助けします」
凛としたよく響く声は女性の声。
異世界転移って、便利だな。言葉がわかるぞ。
ヒィヒィ言いながらも俺は、まだ岩にしがみついている。足元に集まっていたゴブリンがたちまち斬り捨てられていくのを感じながらも、下半身の事情を心配している。
チビる。もうダメ、チビってしまう。
「セイッ」
かけ声もろとも残っていたゴブリンを一刀両断にしたのは、勇ましい出で立ちのオッパイ……いや、赤毛のお姉さんだった。
「怪我はありませんか」
こちらに手を差し伸べてきたのは、金髪のお姉さんだ。露出の高い鎧姿でたおやかに微笑んでいるのが灯り越しに見える。
「我ら、王国騎士団が来たからにはもう大丈夫です」
お姉さんの手を取ると、剣だこのできたゴツゴツとした手が俺の手を力強く握り返してくる。
ヒョイ、と手を引かれて俺は立ち上がった。
「やだぁ……ちっちゃくて可愛いぃ」
二人のお姉さんの少し後ろからボソリと言葉が飛んでくる。舌っ足らずの甘ったるい喋り方だが、まるで矢じりのように鋭くて冷たい言葉だ。
「んハァッ……」
下半身を見ると、ズボンは引きずり下ろされたままだった。そのズボンの裾にはゴブリンの手がぶら下がっていて、どす黒い血がドクドクと流れ出ている。
我に返って慌てて両手で股間を隠してみたが、時既に遅く、ミニマスサイズに委縮したタマタマは王国騎士団のお姉さん方がしっかり鑑賞した後だった。
「あー……服、整えたら?」
赤毛のお姉さんに声をかけられるまでもなく、俺は素早く衣服を直す。ゴブリンに引きずられた時にベルトのバックルが壊れてしまい、ともすればずり落ちてしまいそうな状態のズボンだが、命があっただけ……そして、局部を隠す布が残っていただけでもありがたい。
「危ないところをありがとうございました」
なんだか違和感を覚えながらも俺は頭を下げる。
王国騎士団と言いつつも、三人の騎士は全員女。
三人とも一様に露出の高い甲冑を身に着けているけれど、まさか女だけなのか?
……男は?
「あ、の……」
「ん?」
赤毛のお姉さんが俺を見下ろしてくる。
そう、何よりも皆、俺より頭ひとつ分ほど背が高いのだ。そしてナイスバディで程よく筋肉がついている。
「アンタの名前、なんてゆーんだ?」
「あ、俺は
「ユーチ?」
「そう、遊千」
「アタシは、キャトリーヌ。紅蓮の大剣使いキャットってんだ。よろしくな、ユーチ」
そう言って赤毛のお姉さんが俺の肩をバン、と叩いてくる。痛い。すっげー馬鹿力。
「私は王国騎士団の団長、クリシア・ナーウェルと申します。お互い聞きたいことが山ほどあるでしょうが、まずはこの森を抜けるのが第一かと」
いかがでしょうか、と金髪のお姉さんが言うものだから、俺は大きく頷いていた。
こんなところにいたら、またさっきのゴブリンたちが襲ってくるとも限らない。騎士団の皆さんがいるとは言え、俺にとってここは危険な場所でしかないのだから。
「それじゃあ、城に戻ろう」
キャットはそう言うと俺の肩をガシッと抱く。ちょうど肩にたわわな胸が当たって、心地いい。
「そうねぇ。あんなことやぁ、こんなことをぉ、じーっくりと時間をかけて聞いてみたいものねぇぇ」
あ、この喋り方駄目だ、苦手だ。背後にいるからどんな顔をして言っているのかよくわからないが、さっきのあの矢じりのように鋭くて冷たく、かつ舌っ足らずの甘ったるい喋り方をするお姉さんには悪意しかないように感じる。どんな女なのか、じっくり顔を見てみたいような気もするし、見たくないような気もするし。
肩に当たるオッパイに嬉し恥ずかしドキドキしたりしつつ、ちょっとばかりモヤモヤした気持ちで俺は、三人のお姉さんたちに連れられて森を出た。
森の入り口には別のお姉さんが二人いて、馬と一緒に待機していた。二人ともやっぱり露出の高い甲冑に身を包んだ、長身のお姉さんだ。
「お疲れさまでした、クリス団長。ご無事で何よりです」
「ありがとう、ステラ」
クリシアはそう返すと「城に帰還する」と言い放ち、全員が流れるような身のこなしで馬に乗った。
俺は……馬なんて、競馬でしか見たことのない俺には馬に乗るどころか触れることすらおっかなびっくりだったものだから、キャットが前に乗せてくれた。まるで子ども扱い。男として認識されていないような?
俺を入れて総勢六人で、城への行進が始まった。
馬の背に揺られて、背中にたわわなオッパイが押し付けられるのを感じながら俺は、騎士団のお姉さんたちによって城へと連れて行かれたのだった。
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