31 初夜

 さて、初夜である。

 すでに、かなりきわどい事をしているけれど、間違いなく初夜なのだ。

 お風呂に入って奇麗にして、薄い夜着を着て寝室で待っていると、夜着に軽いローブを羽織ったクリスティアン殿下がノックして入って来た。

 寝室で待っていた梨奈の手を取りキスをする。


「ちゃんとプロポーズをしないで済まない。でも、リナと結婚出来てとても嬉しいよ。愛してる」

 うわあ、なんでこの人こんな時に言うんだろう。

「私もクリスティアン殿下が好きです。不束者ですが、末永くよろしくお願いします」

 震える声で何とか言えた。


 向かい合って抱き合ってキスをする。

 殿下は梨奈を抱き上げて、寝室のベッドに横たえた。

 覆いかぶさってキスをしながら、梨奈の服を剥いでゆく。すぐに自分も服を脱いで、本格的に事が始まった。


 ええと、いや、だから、ここまではセオリー通りというか、本で読んだのと同じ流れだったんだけど。


 ディープなキスをして、それを身体中にされて、恥ずかしい所にもされて、ぐちゃぐちゃでドロドロになったところで、くったりと弛緩した梨奈の身体に乗り上がって、殿下が事に及ぼうとする。


 ああ、いよいよなんだ……、と思って見た天井にソレがいた。

 緑の手というか触手を伸ばして、それが何本もあって、うねうねと蠢いて、ポタリと落ちそうな程に伸ばして、おいでおいでという感じで動いて──。


 何かもう唖然として口を開いたまま声も出ず、ただただソレを見ている内に、殿下はことを進めていった。

 なんか太いモノがミシミシと押し入って来る。

 あまりの容量に息が詰まる。意識が天井から引き戻された。


 殿下は大きな手でガッチリと押さえ付けて、さらに腰を進める。

 痛い、痛くて腰が逃げる。

 殿下が宥めるようにキスをする。

 舌を絡めて、体の力が抜けたすきに、ぐんと腰を進められる。

「やっ、い、痛いっ」

 逃げようとする身体を掻き抱いて、逃がすまいとする。

 痛い。痛いけれど、殿下も苦しそう。


 汗がしたたり落ちる。梨奈も汗でぐちゃぐちゃだ。

「ダメ、痛いっ、痛いのよ!」

「もうちょっと、リナ」

 これはもう、全然ロマンチックとかじゃなくて、二人の共同作業であろうか。

「入った?」「まだ」と声かけあって、時々目に入る天井のスライムも、伸びたり縮んだりして応援するような、踊るような感じで忙しそうだ。

 トライ何回目とかでやっと一つになった時は、もうぐったりだった。しかも、まだまだ続きがあったのだ。


 梨奈はよれよれでドロドロになって、終わった後は、天井にいた何かも忘れ去って気絶するように眠った。



  * * *



 朝、機嫌よく起きて、梨奈にキスをしたクリス殿下は、ベッドの惨状に青くなった。

「体、大丈夫か」と、梨奈の下半身を見て、ジェリーを呼ぶ。

「ダメ、そんなとこに入れないで」

『おいらー、はいれないー』

 二人が同時に遮った。


「ジェリーはオスなのか?」

『おいらー、どっちでもない―』

「どういう事ですか? 殿下」

 目のつり上がった梨奈がクリス王子を睨む。もはや、こちらも惨状である。


「すまん、君に誰も触れないよう結界を」

「……」

 なんて言っていいのか分からない。昨日の今日であれば、ヤキモチ焼かれて嬉しいだろうか? チョロイン過ぎないか、自分。


 さらに殿下がついでとばかりに言う。

「君の美貌が分からないように、認識阻害もかけている」

「ええと、何でそんなことを。私は普通の女子高生ですよ」

 何だろうコレ。こういうのを何て言ったっけ。偏執狂? 変質者? ヤンデレだったっけ?


「そのジョシコウセイというのが分からないが」

「殿下の学校に通っていた女の子達の事です」

「君が普通である筈がない。美しい均整の取れた肢体、白い肌、顔。誰にも見せられない」

 誰かと比べているような、そんな感じの言葉だわ。


「殿下って色んな人を知っているみたい」

 梨奈が疑い深そうな顔で見ると、王子は焦ったように言う。

「誓って、私には君だけだ。ただ、夢で見た男はどちらも遊び人で、何人もの女性と関係を持っていて、私はかなり女性恐怖症になっていた」

 五年前って十三歳か。思春期だよね。

「触れるのも嫌で、それを表に出さない様に苦労した」


「君が現れて、私の呪縛は解けた。君は幾重にも私を救ってくれたんだ。分かって欲しい、失いたくないもののすべてなんだ」

 殿下は跪いて梨奈の手を取りキスをする。

 思うんだけど、これって後の祭りって言わないか。

 すでに結婚しているし、すでに初夜も済ませちゃったし。


「それで、身体は大丈夫なのか」

 結局元に戻った。

「ちょっと何か挟まってる感じがしますけど、多分大丈夫」

「そうか」

 ベッドから降りようと立ち上がると、身体の内から昨夜の残滓が太ももを伝って落ちてゆく。

「あ……」

 口元を押さえて赤くなった。

 その仕草を見て、殿下も口元を押さえて赤くなる。


 洗ってやろうと言い出す前に、さっさと浴室に逃げようとしたけれど、捕まってしまった。

 誰か止めてくれないの? 盛り上がってもいいの?

 流されてしまうけどいいの?




「殿下、奥様にあまりご無体は」

「すまん、よろしく頼む」

 結局ミランダに怒られてしまった。

 奥様って? 汚れたシーツがない。

「ジェリー、お掃除してくれた?」

『してないー』

 無常なジェリーの声。

 うわああーーー、バレバレじゃないの。恥ずかしいよう。

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